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2013.11.01
[インタビュー]
「彼のような人間が存在したことを、私自身、同じ中国人として誇りに思っています」―コンペティション 『オルドス警察日記』 ニン・イン(監督/脚本)、ワン・ジンチュン(俳優):公式インタビュー

オルドス警察日記

©2013 TIFF

 
公式インタビュー コンペティション 『オルドス警察日記
 
―ニン・イン(監督/脚本)、ワン・ジンチュン(俳優)
 
中国の内モンゴル自治区の町オルドスを舞台に、住民の安全と平和を守るために警察部隊に入り、人々も驚くほど完璧に仕事を遂行したひとりの男ハオ・ワンチョンの生涯を描いた『オルドス警察日記』。ニン・イン監督と、主人公ハオ・ワンチョン役を熱演したワン・ジンチュンさんにお話を伺いました。
 

――監督は20年前の『北京好日』で、第6回東京国際映画祭「ヤングシネマ・コンペティション」部門の東京ゴールド賞を受賞していますね。
 
ニン・イン監督(以下、ニン監督):あの時のことは昨日の出来事のように思い出します。いろいろあって、それは選出してくださった映画祭の方々もとても誇りに思っていらっしゃる事じゃないでしょうか。
※第6回TIFF 当時の様子⇒連載企画第4回:【映画祭の重鎮が語る、リアルな映画祭史!】
オルドス警察日記

©2013 TIFF

 

――申し訳ないのですが、ハオ・ワンチョンという人物については全く知らずにいました。
 
ニン監督:そうですね。ハオ・ワンチョンという人がいたこと自体、中国全域ではあまり有名ではありません。でも彼は、地元では非常に有名なんです。そして、彼のような人間が存在したことを私自身、同じ中国人として誇りに思っています。
 
ワン・ジンチュン:実在の人物を演じるわけですから、普通のフィクションの中のキャラクターを演じるよりも難しいものがありました。まずは、私が本物の彼に似ているかというところから問題だったわけで。ニン監督はキャスティングの際、私に「似てる」と言ってくれましたが、まず見た目を似せるために体重を増やすという努力をしました。たくさん食べ続け、なるべく太った状態で撮影に臨んだわけです。で、次に問題になったのがオルドス地方の方言。言葉はきちんと話さなければいけませんからね。
 

――実在の人物を演じるのは、それだけの責任を伴うものなのでしょうし。
 
ワン・ジンチュン:でもこうした問題は比較的、外見上のアプローチなんですが、最も難しかったのは心の中のアプローチです。このハオ・ワンチョンの心の中にどうやって迫っていくか。ひとつひとつの場面に彼がどう考え、何を感じていたのかをつかみきれるかどうか、「精神世界」をどう再現するか。そこが非常に難しかったです。さらにもうひとつ難しかったのが、この映画では役者ではない素人の方々と共演するシーンがたくさんあり、どう合わせていけばいいかと悩みました。私は役者ですが、あまり役者っぽい雰囲気になりすぎずに、なるべくそうした素人の方々と一緒にいて不自然ではない雰囲気を作るというのが、私にとってはかなり大きな課題でした。
 

――素人の方々の起用は意図的ですか?
 
ニン監督:私のこれまでの作品もアマチュアの方をかなり採用してきました。これはいかにリアル感、真実味を作品に持たせるかということを狙って行ってきたことであり、素人の方々と仕事をすることには慣れていました。つまり、俳優と俳優ではない人をミックスして撮影することに私自身は問題はなかったけれど、役者さんにとってどう合わせてどう雰囲気を作っていくかということは、とても難しいことだったと思います。

 
――エンドクレジットで、画面の片側に実在の人物が映り、もう一方の側に演じている役者の方が映るという演出がありましたが、あのアイデアは最初から?
 
ニン監督:作品のためのリサーチの過程で、かなり多くの公安の写真を見ることができたんです。それを何とかこの映画の中に盛り込めないかと考えて、最後にエンドクレジットを実在の人物と俳優を並べるという演出で挟むことにしました。また実際の犯罪の現場のような、ふだんなかなか見られるものではないカットも盛り込むことができました。主演のワンさんは、元々とても若いのですが、この役をやってからすごく歳をとったと話しています(笑)。撮影の初めの頃は舞台劇を終えたばかりで、すごく若く見えていたのです。ハオ・ワンチョンの写真と見比べても若すぎると感じるくらいに。でも実際に演技をやり始めてからというもの、まるで本物のハオ・ワンチョンのようというくらいに似てきた。あまりにも似すぎていて、びっくりすることもあったくらいです。
 

――ワンさんはおいくつですか?
 
ワン・ジンチュン:40歳です。
 

――じゃあ、この役を演じるのにちょうどいいお歳なのでは?
 
ワン・ジンチュン:でも撮影中は39歳でしたよ(笑)。
オルドス警察日記

©2013 TIFF

 

――映画の冒頭、ハオ・ワンチョンの警官になって張り切っている誇らしげな写真が映り、その写真からカメラが引いていくと、それが彼のお葬式の写真になるという演出がショッキングでしたが。
 
ニン監督:あの動きは、最初から脚本の中に書き込んでいました。ただ、実際にそれをどう実現するかということについては、技術的に難しい部分があった。警官の身分証の写真を撮っているところからお葬式の写真を撮るところまでカメラを引いてきて、それからそのままパソコンの場面までいくじゃないですか。その部分はカメラマンのショーン・オーデイとかなり技術的な研究を行いましたよ。実はこの場面は特撮を駆使していて、私のこれまでの作品で最も特撮が多い映画になりました。

 
――でも、それほど特撮色が出てないところがすごいですね。お金もかかったのでは?
 
ニン監督:そんなにお金をかけたわけではありません。ただ、皆さんがご覧になって、とても効果的な演出にはなっていると思います。
 

――日本にも女性監督が増えてきましたが、さすがに本作のような骨太の映画を撮る人はなかなかいません。ワンさんから見てニン監督というのはどういう方ですか?
 
ワン・ジンチュン:この人は“女漢子(ニゥハンツ)”という男前な女性です(笑)。“漢”は男の中の男という意味ですからね。前々からニン監督とは知り合いで監督作品も全部観ていますが、芸術的才能が満ちあふれている素晴らしい人だと思います。今回一緒に仕事をして感銘を受けたのは、ニン監督が映画製作にかける態度が、ハオ・ワンチョンが公安の仕事に打ち込んだ姿勢と同じくらい熱意に満ちていたことです。

 
――素晴らしいコメントありがとうございます。ニン監督はこれまで「北京3部作」に代表されるように、北京を舞台にした映画を撮ってきました。今回はオルドスという内モンゴル自治区ですが、風景は北京とは異なっていても、人間ドラマの部分ではあまり変わりがないんじゃないかと感じましたが。
 
ニン監督:そのとらえ方、間違いないと思いますよ(笑)。
 

取材/構成:佐藤友紀(日本映画ペンクラブ)
 
※ワン・ジンチュンさんは、第26回TIFF 最優秀男優賞を受賞!
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