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2013.11.01
[インタビュー]
「キャスティングでの条件は、ホースマンシップを持っていること。馬好きな俳優さんは優秀なんです。」―コンペティション『馬々と人間たち』ベネディクト・エルリングソン(監督/脚本)、フリズリク・ソール・フリズリクソン(プロデューサー):公式インタビュー

馬々と人間たち

©2013 TIFF

 
公式インタビュー コンペティション 『馬々と人間たち

 
ベネディクト・エルリングソン(監督/脚本)、フリズリク・ソール・フリズリクソン(プロデューサー)

 
コンペティション部門で見事に最優秀監督賞を受賞した『馬々と人間たち』。その大自然界の中で起こる人間と馬のドラマを、衝撃的にエモーショナルに描いたベネディクト・エルリングソン監督とプロデューサーのフリズリク・ソール・フリズリクソン氏に話を伺いました。
 

――衝撃的な出来事がちりばめられて、観客を退屈させない作品ですが、このテーマを撮ろうとした動機はなんですか?
 

ベネディクト・エルリングソン監督(以下、エルリングソン監督):まずなにより「人間」を描こうと思いました。エッセンスとしては人間と馬を描いていますが、裏にはもっと大きなストーリーがあるのです。もちろん馬は大好きです。シティボーイとして育った私でも、アイスランドの習慣として12歳の時から田舎で馬と夏を過ごしています。ですからこの映画を撮ることは、ある種、自分にとってのセラピーだったとも言えるのです。また、この映画を観た人が上等のワインを飲んだように、心地よい後味を感じながら帰って欲しいと願いながら撮りました。

 
――確かに、自然界で人間と動物が共存する姿が荘厳に感じるシーンもあり、観た後は心が浄化されたようにもなりましたが。

 
エルリングソン監督:事故があっても犯罪や事件といったものはない。大自然における普通の人の営みを撮りたかったのです。たとえば、ローポジションからのアングルを用いて日本人を正面から撮った小津安二郎監督のように。小津監督の作品には、大きな影響を受けていますから。
馬々と人間たち

©2013 TIFF

 

――たくさんの美しい馬の登場に、撮影の大変さが伺えます。製作費も跳ね上がったのではないでしょうか?

 
フリズリク・ソール・フリズリクソン:アイスランドでは馬にはお金がかからないのです。乗馬をスポーツとして親しんでいますから、どこの家でも馬を飼っている。確かに難しい撮影ではありましたが、大きな困難もなくてすごくラッキーだったのです。多分、数年前に亡くなった監督のお母さんが導いてくれたのではないかと思っています。
馬々と人間たち

©2013 TIFF

 
エルリングソン監督:そういう見えないスピリチュアルなガイドがあったのでしょう。天気にしてもそうでした。そう、白馬と黒馬の交尾のシーンも、5台のカメラを据えて1回しかチャンスはなかったのですがうまく撮れました。
 
――たくさんの馬、そしてそれを巧みに操る俳優たち。それらを集めるのに、苦労は?
 

エルリングソン監督:撮影のときは、コミュニティの方々が協力してくれました。そして、俳優たちも馬を飼っている人が多いのです。もちろん、キャスティングをする時の条件は、ホースマンシップを持っていること。馬好きな俳優さんは優秀なんです(笑)。実は多くの出演者は、僕と舞台で一緒に仕事をしてきた友人が多い。低予算映画なのでギャラも安いですから。私の妻も出演しています。黒い馬の飼い主の女性役です。

 
――最初に黒馬と白馬の交尾があり、その直後に白馬の銃殺。それからも衝撃が続きますが。
 

エルリングソン監督:まず重要なのは「動物には一切危害を加えていない」ということです。私たちは馬をまるで子供のように愛し、一緒に仕事をしました。その上での衝撃的なシーンですが、こういう予測できないストーリーを伝えたいというアイデアが最初からありました。驚きがあると、自分が作ってきた道筋がより明確に見える。一本道を歩いてきて角を曲がった時に、「おっ?」と驚く瞬間がある。そうすると、観客たちは目を見開き耳をすまして、これからどこへ行くのか、何が起こるのかと感性を研ぎすませる。そうなれば隠れている内側のものまで見えてくる。だからこそ残酷な場面はあっても、見終わった後の後味がピュアになるのではないでしょうか。
 
――構図と色彩設計の完成度の高さは、どのシーンを切り取っても絵画のように額にきちんと収まる感じです。長い舞台経験のたまものですか?
 

エルリングソン監督:ほぼ脚本に忠実に撮影しました。舞台だと俳優に委ねてアドリブを使ってもらうこともあるのですが、この映画にはアドリブは一切ありません。いくつかの物語が複雑に絡まっていますから、それをきちんと紐解いていくためには、脚本通りにしなければつじつまが合わなくなって観客が混乱してしまいますから。ビジュアルに関しても、すべての構想は絵コンテに描いて事前に準備。偶然に撮ったシーンはありません。とにかく低予算で撮れたのは、そうした準備のおかげです。ま、脚本は20ページしかありませんでしたから(笑)。
 
取材/構成:金子裕子(日本映画ペンクラブ)
 
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