10/23(水)コンペティション『ウィ・アー・ザ・ベスト!』:Q&A
登壇者:ルーカス・ムーディソン(監督/脚本)、ココ・ムーディソン(原作)
舞台は1980年代初頭のスウェーデン。思春期の衝動に駆られてパンク・バンドを始める女子中学生の日常を、みずみずしいタッチで描いた青春映画。
ルーカス・ムーディソンは、初長編の『ショー・ミー・ラヴ』をはじめ、みずみずしい青春映画で定評があるスウェーデンの名監督。7本目の長編となる本作では、監督自身の思春期とも重なる80年代の少女たちの日常を、原点回帰したようなはじけるタッチで描いている。
Q&Aでは初来日となる監督のルーカス・ムーディソンと、原作者である妻のココ・ムーディソンさんが登壇し、あたたかな語りに場内はいっぱいの拍手を送った。
———矢田部PD:スウェーデンを代表する名監督をお迎えできるのをうれしく思います。ルーカス・ムーディソン監督です。そして、原作者のココ・ムーディソンさんです。心はじける素晴らしい作品を出品してくださり、感謝しています。
ルーカス・ムーディソン監督(以下、ムーディソン監督):私たちが日本に来たのは初めてです。私の映画はほとんどがスウェーデン語で作られていて、スウェーデンの観客を念頭において撮っています。ですから、日本にこの作品が招待されたのは驚きであり、とても光栄に思っています。
———矢田部PD:ココさんは監督の奥さまで、原作は自伝というお話ですね。
ココ・ムーディソンさん(以下、ココさん):原作は黒インクで描いた漫画です。モノクロのストーリーが映画化されてカラーになりました。音楽を漫画で表現するのは困難でしたが、映画ではよく表現できているのでとてもうれしいし、素晴らしいことだと思っています。
――主演の3人のプロフィールと選考理由を教えてください。3人のうちの誰が若きココさんですか?
ムーディソン監督:役者たちの名前は、ミーラ・バルクハンマル(ボボ役)、ミーラ・グロシーン(クラーラ役)、リーヴ・ルモイン(ヘドウィグ役)といいます。この3人は同じ幼稚園に通っていたそうです。ミーラがふたりいるので、私たちは小ミーラ、大ミーラと背丈に合わせて呼んでいました。3人ともアマチュアです。クラーラ役のミーラは短編に出たことはありますが、俳優としての演技経験はほとんどありません。
長いオーディションを経て、この3人を選びました。実際に撮影するように即興をしてもらったのですが、彼女たちがとても自由に、伸び伸びと演じていたので気に入りました。
ココさん:ボボが私です。ルーカスが映画化するにあたり、役名をボボに変えたのです。
———矢田部PD:即興で演じさせたそうですが、監督としてどのように演出されたのでしょうか。
ムーディソン監督:彼らを選ぶまで何回もオーディションを行い、長い時間をかけてキャスティングしました。大人も子どもも、アマチュアもプロの役者も同様です。そうして長い時間をかけて配役したので、あとは自由に演らせました。監督としては怠けているかもしれませんね(笑)
今回、心懸けたのは、キャストが自由に即興できる雰囲気をつくること、間違ったり失敗してはいけないと萎縮しないですむ、居心地のいい環境を作ることでした。私にとって大切な仕事は、役柄の心理を説明することではなく、水や果物がその場にあるかどうかを確かめ、みんなが気持ちよく過ごせるようにすることでした。
――この映画の女の子たちは、夜遅くライブをしたり、髪をパンク風に逆立てたりしますが、日本では親が許してくれないと思います。スウェーデン人は寛容なのでしょうか。
ムーディソン監督:私自身も親ですが、人それぞれで、寛容な親もいれば口うるさい親もいます。私たちの親の世代はちょっと自分にかまけ過ぎで、子どものことを忘れてしまう人たちが多かった(笑)。とくにストックホルムに住む高学歴の人々は、自分のことに忙しく、子どものことを忘れてしまう傾向が強かった。その頃に較べると、いまのスウェーデンの親たちは、子どもに対して過保護です。過保護であれ放任主義であれ、どちらもやり過ぎはよくないですよね。
ココさん:映画のなかの子どもたちを見ると、やっぱり、かわいそうだなと思います。でも親に構ってもらえないからこそ、自分でバンドを始めたり、クリエイティブなこともできるわけで、いいこともあったかなという気がします(笑)。
――エンド・ロールで、クラリネットを吹く場面が面白かったのですが、なぜあの場面を入れたのでしょう。全体的にドキュメンタリー風ですが、どんなところに気を遣いましたか?
ムーディソン監督:なぜクラリネットをなんて、私にもわかりません(笑)。
ココさん:楽しかったからよ(笑)。
ムーディソン監督:そう。この映画を作るにあたっては、まず楽しんで作ろうと思いました。だから、論理的に何かを決定するのではなく、楽しいかどうかで判断しました。
ココの自伝的な物語で実際のできごとを取り入れているので、なるべく現実生活に近い、リアルな感覚にしたかったのです。観客に3人と一緒に過ごしている気分になってほしかった。だから、最初から最後まできっちりとストーリーを語るのではなく、小さなストーリーを散りばめ、その一つひとつを近しく感じてもらうのがいいと思いました。実際の人生でも、小さなストーリーが何か別のものになっていくのはよくあることだと思います。
ドキュメンタリー・タッチにしたのは、即興で演じてほしかったからです。すべてを計画し、そのとおりにやるのは好きではありません。一体どうなるのかわからない。予定にないことが起きるというのが楽しいのです。
――監督の大ファンで感激しています。監督の映画はどれも、10代の女の子が魅力的です。主人公に10代の女の子を選ぶ理由があれば教えてください。
ムーディソン監督:私にとって、昔の作品は過去のものです。この映画についてお答えすると、ココの原作に忠実にしたい気持ちがありました。スウェーデンではパンクは男っぽいものであり、10代の女の子の視点にしたら面白いんじゃないかという思いもありました。13歳の私もココのような一面がありましたが、ココのほうがタフで、私はもっとシャイでした(苦笑)。
――最初から最後まで楽しくて、大好きなシーンがたくさんありました。お二人が思い入れのあるシーンを教えてください。また、クリスマスにチーズを贈るのは何か意味があるのでしょうか。
ムーディソン監督:この映画を好きと言ってくださり、ありがとうございます。
どのシーンが好きかと聞かれると、私もココも、ボボのお父さんの場面が好きだと答えます。彼は目のなかに悲しみを湛えています。ボボが手を洗っているとき、彼が娘を見るまなざしには悲しみが見てとれます。
これは私たちに共通して言えるのですが、ふたりとも文章を書いたり絵を描いたりしているので、細部にとてもこだわります。私は監督するとき小さいものに着目して、その小さいものに大きなことを語らせるということをします。
ボボのお父さんの話で言えば、彼のまなざしを見るだけで、親子の間に距離があるのがわかる。父親が子どもの生活と引き離され、それを悲しく思っているのが伝わる場面になっていると思います。
ココさん:チーズの質問ですが、私が子どもの頃、イースターのお祭りでは卵にお菓子を入れるのが一般的でしたが、父がチーズを入れてしまい、残念だった思い出があります。映画ではこのエピソードを、クリスマス・プレゼントの場面に転用しました。
ムーディソン監督:これは私たちの親世代によくあることですが、保守的なものをとても嫌います、自分たちが新しいものを作るんだと思っていて、キャンディーではなくてチーズを入れたりする。子どもは誰も喜んでいないのに(笑)。
———矢田部PD:楽しいお話をずっと聞いていたいのですが、残念なことに、時間になってしまいました。最後に監督からひと言お願いします。
ムーディソン監督:こんなに大きな劇場で、たくさんの観客に観ていただけて圧倒されています。遠く隔たった国の映画なのに、想像以上に理解してくださり、大変うれしいです。もしかしたら、日本とスウェーデンはそんなに違わないのかもしれません。人間というのは、自分たちが思っている以上に、お互い同士理解できるのかもしれませんね。
コンペティション
『ウィ・アー・ザ・ベスト!』