Home > ニュース > 「人はチャンスが与えられれば、違った選択をし異なる人生を送ることができる」―ワールド・フォーカス『高雄ダンサー』ホー・ウェンシュン監督、ファン・ウチョル監督、安藤紘平(製作総指揮):公式インタビュー
ニュース一覧へ 前のページへ戻る
2013.10.25
[インタビュー]
「人はチャンスが与えられれば、違った選択をし異なる人生を送ることができる」―ワールド・フォーカス『高雄ダンサー』ホー・ウェンシュン監督、ファン・ウチョル監督、安藤紘平(製作総指揮):公式インタビュー

公式インタビュー ワールド・フォーカス 『高雄ダンサー
 
高雄ダンサー

©2013 TIFF

 
ホー・ウェンシュン(監督/プロデューサー/脚本/撮影監督/編集)、ファン・ウチョル(監督/プロデューサー/脚本/撮影監督/美術)、安藤紘平(製作総指揮)
 

高雄の小さな港町で育ったひとりの少女と彼女を愛するふたりの少年。この幼なじみがたどる人生を、台湾のホー・ウェンシュン監督と韓国のファン・ウチョル監督がコラボして重層的に描いた『高雄ダンサー』。製作総指揮を担当した早稲田大学安藤紘平研究室の安藤教授とともに、ふたりの監督にお話を聞きました。

 
――ふたりの監督が、どのようにコラボして製作をしていったのですか?
 
ホー・ウェンシュン監督(以下、ホー監督):脚本は、それぞれの視点とアイデアを共有し、たがいのスペースを意識しながら、共同作業で書きました。
 
IMG_9094ss

©2013 TIFF

 
――挿入される油絵の世界観が新鮮でした。
 
ファン・ウチョル監督(以下、ファン監督):私は画家であり彫刻家でもあります。ですので撮影に入る前に、134のすべてのシーンの油絵を描き、このシーンは実際にはこういうイメージになるとホー監督に見せて、ふたりのイメージの共有を図ったのです。
 
ホー監督:物語では、沈没船が重要な役割を果たしますが、実際に海底に沈む船を撮影する事は困難です。普通なら特撮に頼るのですが、それもありきたりかなと思いいっそ絵画を使ったほうが効果があるのではと考えました。それで、ファン監督が一枚ずつ描いた絵を層にしてひとつの世界を創ったのです。ファン監督は、私が「こういうものが欲しい」というとパーッと描いてくれてそれをスキャンする。その連続でしたね(笑)。また、彼にはそうした視覚的な言語があるので、ピアニストでもある私の音の言語と融合させて大きな効果を生んだと思います。

 
――絵画の映像によって寓話的なニュアンスが加味されているように感じましたが?
 
ファン監督:寓話的とはちょっと違うのです。私は、リアルというもの、生きるということの実態の半分はイリュージョン、つまりは超現実的なものだと思っています。生きているということはある意味、一部分は夢を見ているようなものだ、と。つまり人生は、実際にあるもの、超現実的なもの、妄想のようなもの。そういったものが結合しているのだと思います。ですから寓話的というより、超現実的といったほうが的確だと思います。

 
――少女イーと、彼女を愛するふたりの少年コンとチー。3人を主人公にした物語のテーマは?
 
ファン監督:人生というものを示したいと思いました。この作品は、18年間の時の流れが3部に分かれています。第1部は、イーという女の子が「私を愛しているなら沈没船の中から黄金の鐘を持ってきて」と要求します。それによって、ふたりの少年は海に潜って沈没船に閉じ込められてしまう。9年後の第2部は、コンが「うちのお父さんのお金を盗んで来い。それで3人で都会に行こう」と要求したことにより、チーは殺人者になってしまう。そして、さらに9年後の第3部は、チーが愛を手に入れようと思うようになる。そして、愛を求めるがゆえにイーとコンが傷ついてしまう。つまり、人生とは思いがけないもので、愛という名のもとに自己主張をすると失敗したり、挫折したり、絶望することがあるのだ、と。

 
――3人とも過酷な運命をたどりますよね?
 
ファン監督:しかし、ラストをご覧になっていただければわかりますが、少し希望を見いだしていただけると思います。機会が与えられれば、また違った選択をして異なる人生があるかもしれない、と。私はそこに希望を見いだしたかったのです。
 
IMG_9108ss

©2013 TIFF

 
――キャスティングは、どのように?
 
ホー監督:3人が一緒にいるときの雰囲気で選びました。実は、チーを演じたエド・パンは、高雄で行われたデザイン・フェスティバルのスタッフでしたが、私が「いいなぁ」と思ったので「オーディションに来ない?」と誘いました。そして、エドがオーディションにきた同じ日にイー役のクライ・ファンも来ていたのです。しかも彼らは同じ台北の同じ小学校の出身で、エドはクライのことを覚えていました。だからオーディションが終わった直後に「いま、一緒に組んで演技をした女の子、知っているかもしれない」と訊いてきました。さらに、高雄には芸術村みたいなところがあるのですが、そこに私がファン監督と参加した時に、コン役のクオ・ユィティンも画家として参加していて、そこで知り合いました。私たちは高雄出身者を探していたところ、ちょうど彼がいいのではないかと思いました。そして彼にオーディションに参加してもらい、この3人のアンサンブルが一番いいと決めました。

 
――台湾在住のホー監督と、韓国在住のファン監督がシンガポールで出会い、意気投合したことから本作を創る事になりました。さらに、出演者まで偶然の奇跡のような出会いで決定。運命的な巡り合わせで結実した一作ですね?
 
ファン監督:しかも、映画を創りたいとシンガポールで思った後、ホー監督と一緒に製作総指揮を担当してくださった安藤紘平先生の研究室に、博士課程の学生として伺いました。そのおかげで、先生の研究室にあるデジタル機材を、撮影はもちろん、編集や録音にも使わせていただきとても助かりました。
 
IMG_9099s

©2013 TIFF

 
安藤紘平(製作総指揮):この作品の映像に見られる、未来と現在と過去が同時に起こるという感覚は、武満徹やラヴェルの音楽と同じです。音楽家でもあるホー監督の多層的な表現は、ラヴェルに通じるオーケストレーションなのです。また、実写とアニメーションと絵画をひっくるめて見せていますが、それを僕は“レイヤー”と呼んでいます。ホー監督は、この方法を音楽の音符をヒントに発見しました。音楽家は音符を一目見ると、どんなメロディーかが見えてくる、聴こえてくる。ところが、映画は脚本を読んでも映像を見ないとわからないところがあります。それをデジタル機材を使って処理すると、見えてくるものがあると発見したのです。つまり、デジタルで音楽や絵画も一緒にオーケストレーションしようということで生まれたのが、この作品なのです。
 
ファン監督:僕たちの作品は、大作の宣伝費くらいしかかかりませんから。あと10本くらい撮りたいと思います(笑)。
 

取材/構成:金子裕子(日本映画ペンクラブ)
 
ワールド・フォーカス
高雄ダンサー

KEIRIN.JP本映画祭は、競輪の補助を受けて開催します。TIFF History
第25回 東京国際映画祭(2012年度)