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2013.10.28
[イベントレポート]
「日本映画を観て育ったので、無意識に影響は出ているかもしれません」-コンペティション『ルールを曲げろ』10/20(日):Q&A

ルールを曲げろ

©2013 TIFF

 
コンペティション『ルールを曲げろ』10/20(日):Q&A
 
登壇者:ベーナム・ヴァーザディ(監督)、ネダ・ジェブライーリ(女優)
 
アマチュア劇団に夢の海外公演の話が舞い込むが、インターネットでいろんな情報が受けとれる現代イランにあっても、主演女優の父親は旧弊で娘の海外渡航を許さない。さてどうするか? 長回しを駆使して魅惑的な映画空間を創造しながら、旧世代への反抗と新世代の価値観をユーモラスに見せる作品。ワールド・プレミアの会場には、ニューヨークに拠点を措くアミール・ナデリ監督が姿を現し、監督と女優に惜しみない賛辞をおくった。
 
矢田部PD:お二人は初めて東京にお見えになりましたが、いまの印象を教えていただけますか?
 
ベーナム・ヴァーザディ監督(以下、ヴァーサディ監督):映画祭にご招待いただいて光栄です。冷たい雨の中、たくさんの人が集まって下さり、ありがとうございます。
まずは、会場にいらっしゃるアミール・ナデリ監督をご紹介します。イラン映画の巨匠で偉大な監督であるナデリさんは、しばらく故国に住んでおりませんが、私たちは大変な影響を受けております。皆さんどうぞ拍手を。
 
――(場内拍手)
 
ヴァーサディ監督:日本は初めてで東京に来てまだ4日ですが、皆さんとても親切で、きれいな街並みに感動しております。規則正しい国民性で、温かく迎えてくれた日本の方々に感謝しながら、映画祭をエンジョイしてます。
 
ネダ・ジェブライーリ(以下、ジェブライーリさん):この寒い中、映画を観にきて下さり、ありがとうございます。皆さん楽しんで頂けましたか? 日本に初めて来きましたが温かく迎えてくれて、いまとても楽しんでいます。しかも今日は巨匠であるアミール・ナデリ監督がこの会場までお越し下さり、私のデビュー映画を観て下さいました。もう胸がいっぱいです。私が生まれた時、ナデリ監督はすでにイランにいらっしゃいませんでしたが、映画に興味をもち、この作品に参加した頃にはナデリ監督の大きな影響を受けています。だから今日はとてもうれしいです。
 
――限定された設定の中で、濃密な時間を体験することができました。演劇的に撮られた映画で長回しが多用され、役者のアンサンブルが素晴らしかったのですが、入念なリハーサルをされたのですか。
 
ヴァーサディ監督:リハーサルをたくさんやりました。そこでは脚本どおりにセリフを言ってもらうことを原則としました。でも新鮮さを持たせるために、カメラを回す最後の段階で、各人に秘密をもたせたり喋らせたりしました。
鮮度を保つためにそうしたのです。
 
矢田部PD:監督は長い時間カメラを回しています。室内シーンもそうですし、駐車場の場面も素晴らしい効果を挙げています。何回も撮り直しをされたのですか?
 
ヴァーサディ監督:シーンごとに異なりますが、2~3回で済むこともあれば、10回ほど繰り返したこともありました。技術上の問題が起きたり、アクシデントに見舞われたときには撮影を中断しました。
 
矢田部PD:ネダさんはこれがデビュー作とのお話でしたが、長回しという手法に対してどのように望まれたのでしょう。緊張したのか、何度もやり直すことになったのか。女優の立場から聞かせてください。
 
ジェブライーリさん:デビュー作なので比較すべき作品はありませんが、私は芝居の経験があるので、舞台にいるような気分で演じればいいんだと思っていました。何回もみんなでリハーサルをしたので、実際に、舞台の上で演じているような感覚でした。そうは言っても、カメラの存在をまったく感じずに済んだわけではありませんが……。
何回も稽古を重ね、呼吸が合うまでチームワークを高めていくのが監督のやり方です。最初に冒頭の場面を撮ったのですが、カメラが回り始めると、私は少しアガってしまいました。でも何回もリハーサルするうちに、緊張が溶けて、すっかり入り込んでしまいました。他の役者もみな同じで、舞台をやっているような感覚で演じていました。撮影上の技術的な問題は監督に任せればいいと意識しなくなったのです。そのまま、1テイク1シーンの長いシークエンス・ショットとなり、かなり大変な撮影でした。
 
――美しい映画で感動しました。イランにおけるフェミニズムの役割の変化について、お聞かせいただければと思います。
 
ヴァーサディ監督:イランの新しい世代は親の世代と異なり、よりグローバルになっています。メディアが発達し、インターネットが普及したことにより、みんなの手に新しい情報がどんどん入って来るからです。そこで得た新しいアイディアをもとに人生をどう考えるのか。どんな道を歩んでいくのかが若い世代の男女に共通している意識です。だから昔の世代とはまったく違います。
規則や法律は変えられない。でも人生や生活の中では可能なかぎり、新しいやり方を取り入れ、自分たちの権利を手に入れたいと思っているのです。女性もそうだし男性もそうです。その辺では女性も、世代ごとに考え方も変わってきていると思います。
 
ジェブライーリさん:フェミニズムというのは複雑な考え方かもしれませんね。もともと女性は、男性よりも社会に進出したいと考えていたかもしれません。しかし実際はそうではなく、同じ立場にいたかったのでしょう。イランの中では、どんどん女性の存在感は強く目立ってきて、社会的に男性と違いはありません。イランの女性は世界的に遅れていると思われるかもしれませんが、社会に出たり、大学に通ったり、さまざまな言葉を喋ったりして、いろんな職に就いています。大学進学率は、男性よりも女性のほうが多いのです。
イランの女性はヒジャブを被っているので、遅れていると思われるかもしれませんが、インターネットで世界とつながり、考え方もグローバルになりつつあるので、皆さんと近い環境におり同じ考え方を共有できます。私たちは皆さんとどれだけ違うかではなく、どれだけ似ているのかを見いだそうとし、そうした考えの上で仕事をしたり考えたりしています。映画祭のような有意義な交流の場が増えているおかげで、皆さんはイランの女性の気持ちが理解できて、私たちも皆さんとお話しすることができるのです。
 
アミール・ナデリ監督(以下、ナデリ監督):朝から雨が降っていて、映画に行くのは大変だなと思いながら駆けつけましたが、来てよかったです。実際、すごく驚きました。1つは、脚本が凄く良かったからです。小さい劇団の話でありながら、イラン社会におけるグローバリズムの侵入をテーマにしており、とても驚かされました。もう1つは、これが監督の2作目であるという点です。これだけ練られた脚本で、2作目というのはすごく驚きです。監督はこれまで、どんな作品を作ってきたのでしょうか。役者の演技も素晴らしかったので、そのことも含めてお尋ねしたいと思います。
 
ヴァーサディ監督:お褒めに預かり誠に光栄です。実は、20年ほど前から映画や舞台の仕事をしています。若いときに8ミリ・カメラを手に映像を撮ったり、舞台に参加したのがキャリアの始まりでした。大学は映画学科の監督部を卒業しています。それからテレビのドラマやドキュメンタリーに関わり、編集をしたりカメラマンをやりました。じきに脚本を書くようになり、テレビ作品や他の監督のためにたくさん書くようになりました。ドキュメンタリーや短編を併せて20本以上の作品を作っており、テレビのドキュメンタリー・シリーズも手がけました。また他の監督の編集をしたこともあります。
脚本家としては、イランの有名監督の脚本を何本も書いています。2008年に長編デビュー作を撮りましたが、新作を完成させるのに5年もかかってしまったため、この間、テレビの脚本を書いたり演出をして食べてきました。
 
ナデリ監督:映画を観て、溝口健二監督のことを思い出しました。長回しもそうですが、『雨月物語』のように一つの場所に固定して役者を撮っています。偉大な映画監督である溝口健二をどう思いますか。
 
ヴァーサディ監督:この2~3日間、何回も同じ話をしているので、皆さん聞いているかもしれませんが、私が小さい頃に革命があって、イランのテレビ局は健全な映像、つまり、イスラムの教えに近いものを放映しないといけないことになりました。そして、それに適うものとして、たくさんの日本映画が放映されていたのです。日本映画は考え方もそうですが、服装などもイラン人にとって身近なものであり、イランのテレビではひんぱんに日本のドラマや映画が流れていたのです。
「まるで日本に居るみたい。ずっと日本のものを観てるしね」と、イラン人はよく冗談を飛ばしてました。先生と生徒の関係、親や目上の人への尊敬など、日本のドラマティズムはとてもイラン人の考えに近かったので、私たちはよく慣れ親しんでいました。
子どもの頃そうだったので、もう無意識に日本映画の影響は入り込んでいます。黒澤明監督の映画はほぼすべて、溝口監督の作品もたくさん観て、大きくなりました。だから私たちは日本映画で育ってきたと言えます。
お話に出た『雨月物語』も私たちはもちろん観ていますし、何回も繰り返して観るうちに日本映画の題名はすべて覚えてしまいました。信じて頂けないかもしれませんが、サムライの真似をして遊んでいたくらいです(笑)。恐らく、全世界の子どもたちが鉄砲をバンバン撃って遊んでいる頃に、私たちイラン人だけはサムライごっこをしていました。私は『雨月物語』も黒澤監督の映画も大好きですが、日本映画の影響は心の奥底に残っているものと思います。
 
ジェブライーリさん:最後に一言。ナデリ監督は先ほど役者のことも褒めてくださり、大変光栄です。私はみんなの代表として日本へ来ました。チームで頑張って演じたことが認められたので、みんなを代表して御礼申し上げます。実際、協力がなければ映画は完成しなかったのですから、仲間のみんなにもお礼を言いたいと思います。ありがとうございました。
 
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©2013 TIFF

 
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