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2013.10.29
[イベントレポート]
「喫茶店で実際にいたカップルの会話をまるまるパクリました(笑)」―10/19(土)日本映画スプラッシュ『サッドティー』:Q&A

サッドティー

©2013 TIFF

 
10/19(土)日本映画スプラッシュ『サッドティー』のQ&Aが行われました。
 
登壇者:今泉力哉(監督/脚本/編集)、市橋浩治(プロデューサー)
 
矢田部PD:実は、私はずっと今泉監督の追っかけをやっておりまして。ようやく東京祭映画祭にお迎えし、このように壇上に並ぶことができ、夢が叶いました。
 
今泉力哉監督(以下、監督):ありがとうございます。
 
矢田部PD:我々選定スタッフ一同「これは面白い!」とほぼ即決だったのですが、その後今泉監督に「我々が知らない面白さを矢田部さんは知っているのですか?」と言われてしまいました(笑)。この映画はラブコメではない恋愛コメディーという新しいジャンルなのではないかと思いました。色々な人物がでてきますが、どの人物から描き始めたのですか?またはどこから始めたのでしょうか?
 
監督:まず、この映画は、僕が講師を務めた劇場公開講座の生徒と作ったワークショップ映画です。自分でこういうテーマを伝えたいという気持ちがあまりないので、それよりも映画の中の登場人物が生き生きしていればいいなと考えています。なので(役者に)特技を聞いたりしていました。
 
矢田部PD:と、特技ですか?
 
監督:競歩のできる役者がいて(笑)。それから、今までのラブコメの定義というのは、誰かと誰かが出会って、その人たちが結ばれるか否かというものが多いと思いますが、僕はそれよりも、すでにつき合っている関係性の中での人間の話をやりたくて。コメディーというジャンルに関しては、ドタバタ劇よりも気まずさの笑いのほうが笑えると思っていたのでそれで書き始めたのですが、ずっとこのテーマでやり続けていたのでネタが切れていて(笑)。「書けない!」って(笑)。「映画監督が脚本を書けない人」というところから始まりました(笑)。
 
矢田部PD:柏木は今泉さん自身ですか?
 
監督:そうですね(笑)。浮気はしていませんが、人をきちんと好きになれないという点ですね。片思いや一目惚れといった、誰かを追っている状態までは好きだと思う人が多いのですが、つき合ってしまうときちんと好きでいられなくなるんです。基本的に自分がモテる人ではないので、彼女がいるという状況が気持ち悪いというか。今は結婚して子供も2人いるんですけど(笑)。
付き合っている期間の長さとか、結婚したら他の人を好きになっちゃいけないという考えに追い込まれてしまって、現在の妻まで1年続いたことがなかったんです。そういった自分の一部分が、どのキャラクターにも反映されていますね。
サッドティー
 
矢田部PD:役者さんの恋愛感や経験なども盛り込まれましたか?
 
監督:意外と恋愛話はあまり聞いていないですね。彼氏または彼女はいるのかいないのかくらいです。恋愛感を聞いてその役者にそのようなキャラクターを与えたということまではしてないですね。見た目や雰囲気から自分で作り上げました。
 
矢田部PD:ということは劇中にみられる恋愛感は100%監督のものということですね?(笑)
 
監督:100%ではないです(笑)
 
矢田部PD:市橋プロデューサーは脚本の段階で監督に対して何か心配事はありましたか?
 
市橋浩治プロデューサー(以下、プロデューサー):基本的に長いという(笑)。そこが一番心配なところでした。脚本の段階でどこか削れるところはないかと検討し、撮影が終わって編集する段階でも軽く繋いだ時に2時間20分あったので20分くらい削りました。ワークショップで作るという事で、目標としては面白いものを作るということではあったのですが、できれば色んな役者さんの個性がうまく引き出せて、その人が生きることの方が大事かなと思いました。若手監督の今泉監督と俳優を目指す若者たちがぶつかり合いながらいい作品を作って、それを色んな人に観てもらうことで監督のみならず役者も世に出るチャンスができればなと思っていました。実はこの映画は東京国際映画祭を目標に始めたんですよ。狙っていたところに呼ばれて、監督キャスト僕も含めてものすごく嬉しく思っています。
サッドティー

©2013 TIFF

 
Q:映画の最初のシーンをなぜジョギングではなくあえて競歩にしたのですか?
 
監督:インディーズなので何かを時間をかけて練習する期間も予算もなく、本人がもうすでに持っている技量だったらいいかなと。だから特技を聞いていて。今回はたまたま朝日役の彼が競歩で、神奈川県で結構いいところまでいったという話をしていて。「競歩できるの!?」「競歩の映画ってなくね!?」という話になりました(笑)。公園にみんなで阿部さん(朝日役)の競歩を見に行きましたが、競歩はいい画にならなかったです。(会場爆笑)
 
矢田部PD:始まりのシーンで「決めた!」というくらいの強烈なインパクトでした。なぜあのシーンを最初に持ってきたのでしょうか?
 
監督:今年映画祭に来ている、ソフィア・コッポラ監督の『SOMEWHERE』が大好きなんです。冒頭にスポーツカーがコースを5週走るというシーンがあるのですが、あの映画の倦怠、退屈というテーマが『サッドティー』の主人公の気持ちと共通していると思い、同じく5周する画にしました。タイトルを出してお洒落な音楽をかけて始めよう、みたいな。(会場爆笑)
撮影して編集して(『SOMEWHERE』を)見返してみたら画が全然違いましたね(笑)。音楽も『SOMEWHERE』っぽい曲を作ってもらったのですが、全く画にはまらなくて、「全然違う違う違う!」ってその曲も外しました。(笑)。
 
Q:タイトルを『サッドティー』にした理由はなんですか?
 
監督:毎回、タイトルにはすごくこだわっています。今回もタイトルが本当に決まらなくて二転三転していました。いつも1つ前の作品や2つ前の作品のためにつけて放り出したままになっていたタイトルから持ってくることがよくあって。「寂茶」というタイトルでずっと書きかけになっていた脚本があって、その「寂茶」という言葉がすごく好きだったので初期段階では『寂茶/サッドティー』というタイトルにしていました。特に象徴的なシーンというわけではないのですが、お茶を飲みながら別れ話をするシーンなどもあったので。最終的には漢字の持つ強さと日本独特の何だか半端な感じのするカタカナと英語と迷い、カタカナに決めました。最初は縦文字だったんですよ。カタカナがハイカラだった大正時代の小説の表紙の雰囲気が、インパクトもないしダサい「サッドティー」って言葉と合うなと自分の頭の中で思っていて、それで確定しました。
 
Q:強烈な印象を残す俳優にして監督、二ノ宮隆太郎さんを起用したのはなぜですか?
 
監督:最初の脚本にはなかったんです。彼はこの現場に助監督として参加してくれていましたし、以前から彼の芝居を見ていたので、見た目も面白く、芝居も良いなと思っていました。それに役者を志望している人が集まっているワークショップで他のところから役者を呼ぶのは何か違うなと思ったので、近くの人で芝居ができる人を起用しようということでした。適役だったと思います。ただひとつ・・・彼は自分で監督した映画に出ている時ほど良くないです(笑)。
 
矢田部PD:あの長いシーンは何テイクくらい撮られたのですか?
 
監督:脚本の出来上がりが本当に遅かったので、ワークショップで稽古できたシーンは半分もないくらいです。あとは現場での本番撮影前のテストでしか行えていないのが実状でした。テイクの数で言うと、消えたシーンは一発で、その後の2人の長回しは2回だけです。
 
Q:「ななみ」というキャラクターの台詞はどのように作られたのでしょうか?
 
監督:アドリブに見えますけど、あれはきちんと脚本に書かれています。途中からアドリブですけどね。今回初めて、新宿にある行きつけの喫茶店で実際にいたカップルの会話をまるまるパクリました(笑)。その2人は絶対つき合ってないんですけど、男の人は完全に女の人を好いていて、女の人は可愛らしい感じで。男の人は・・・・ここに本人いたらヤバいんですけど(笑)、結構苦手なタイプの若者で。男の人がノリノリで話していて、女の人はつき合ってあげているという光景を丸パクリしました(笑)。
 
矢田部PD:映画全体がすごくリアルなのに、柏木の髪型だけ違和感があったのですが、何か意図があれば教えてください。
 
監督:ひとつは彼の見た目が普通なので、個性をつけたかったんです。これは本当に失敗したんですけど(笑)。ガス・ヴァン・サント監督の『永遠の僕たち』のヘンリー・ホッパーが可愛らしい寝癖で女心をくすぐるという演出を真似しようとしたんですけど、なぜか角になってしまって(笑)。失敗してしまいました。僕も言うのがなぜか遅かったんですけど、撮影の3日目にメイクさんに意図を伝えたら、「え?それ最初に言ってよ!」と言われてしまい、もう時すでに遅し、でしたね(笑)。僕は大丈夫だと思ったのですが、カメラマンやスタッフが真剣なシーンで角がはっきり映る度に笑うので、これはまずいんだなと思い、最後の海でのラストシーンでようやく直しました(笑)。
 
矢田部PD:監督の今後のネタがありましたらお聞かせください。
 
監督:準備中の作品が2本ありまして、1つは『夏風邪』という作品で現在編集中です。この作品はサイレントで一切音がない20~30分の映画で、今年(2013年)の10月27日に新宿K’s cinemaで上映されます。風邪を引いたお姉さんとそこに看病に来る妹と気まずい関係性の彼氏がでてきます。よければ観てください。もうひとつは漫画原作の話を今月の月末からクランクインする予定です。矢田部さんが聞きたいような構想しているという意味での次回作は、最終的にはきっと恋愛要素が入ってくると思うのですが、冒頭の画だけは頭に浮かんでいます。暗い女性がぽつんと荒れた部屋に座っていて、強盗に荒らされたのだろうかと思うのですが実はその女性自身が荒らしていたというところから物語がスタートするという話を考えています。軽犯罪ものですね。
 
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