映画祭事務局に来てくれたシモン・ニコラス・ジュニア プロデューサー、ミクハイル・レッド監督、パメラ・L・レイエス プロデューサー
10/22(火)アジアの未来『レコーダー 目撃者』の上映後、ミクハイル・レッド監督(監督/脚本/編集)、パメラ・L・レイエスさん(プロデューサー/クリエイティブ・コンサルタント)、シモン・ニコラス・ジュニアさん(プロデューサー)をお迎えしてQ&Aが行われました。
石坂PD:最初にずつご挨拶をお願いします。
ミクハイル・レッド監督(以下、レッド監督):皆さん、今日は来てくださってありがとうございます。この映画は実は今回が海外で初上映となります。世界初はシネマラヤというフィリピンの映画祭でした。この映画祭は10本の脚本を選んで助成をして上映に至るまで面倒をみてくれるということで、その甲斐もあって長いプロセスを経て、そしてこの2人のプロデューサーの協力を経て、皆さんにお披露目できることになりました。これは僕の初長編作です。高校生の時から短編を作りだして、今回勇気を出して長編映画に挑みました。この映画に挿入されているビデオは、オンライン上にアップされたビデオをそのまま使っています。
パメラ・L・レイエスプロデューサー(以下、パメラさん):今回、海外初上映なので、多くの方にこの作品を観ていただきたいと思っています。もし気に入っていただけたのでしたら、これからもフィリピンの映画を応援してください。
シモン・ニコラス・ジュニアプロデューサー:監督は21歳で、今までのシネマラヤ・インディペンデント・フィルムフェスティバルで最年少の監督でした。そしてガールフレンドでもある、プロデューサーのパメラさんと私とで東京に来られたことを、とても嬉しく思います。海外初上映がTIFFになりましたが、選んでいただいて夢が一つ叶いました。東京国際映画祭は世界の中でもとても権威のある映画祭だと思います。本当にありがとうと申し上げたいです。
石坂PD:東京国際映画祭に参加されるのは、実は初めてではないそうですね?
レッド監督:はい、4年前に僕の父であるレイモンド・レッド監督の『マニラ・スカイ』がコンペに選ばれて、父と弟と一緒に来ました。その時からまたここに来たいと思っていたので、自分の作品で今回参加できたということに本当に興奮しています。父も誇りに思っていると思います。
石坂PD:やはり小さい頃からお父さんに影響を受けて、たくさん映画をご覧になっていらしたのでしょうか?
レッド監督:そうですね、本当に映画に囲まれて育ちました。ただ、父から映画関係に進むようにと強制はされませんでした。自分で実験的に短編映画を撮りだして、次の作品へと駆り立てられ撮っていく中で、監督として成長していきたいと思ってきましたので、映画は僕の人生で大きな位置を占めています。僕の周りには常に業界に携わる家族や友だちがいましたね。
Q:フィリピンで勉強していたことがあるのですが、確かに海賊版のDVDやCDが出回っていて、正規版を買っている人がいないような状況ですね。監督はこの作品に、この現状に抵抗するような意味合いも含めたのでしょうか?
レッド監督:実際に海賊版が売られている場所で撮影したので、ちょっと奇妙な気はしました。海賊版DVDは、今となってはフィリピン文化の一つとなっています。映画館の入館料がとても高いので、ほとんどの人が貧困層に属しているフィリピンでは、海賊版なしでは映画を観る機会というのがなかなかありません。ただもうデジタル時代になっていますので、ダウンロードして観る人が多くて、いわゆるDVDショップというか海賊版ショップが減っていて、主人公のマーベンが職を失いそうになるんですね。今回、オプティカル・メディア・ボードという政府の機関にもアプローチして、いろいろリサーチしました。映画の中で、ブルドーザーでDVDが壊されるシーンがありましたね。あれは政府の取締り機関がキャンペーンのために見せつけているのですが、根源となる問題は解決されていない。それは貧困でもあるし、元締めのような人を見つけていないということでもある。劇場でも警備を厳しくしています。映画に出てきたゴーグルで認知ができるようになっていたり、荷物検査があったり、そういったことで作品の権利が守られるようになりつつあります。
ただ、僕の映画は海賊版に対して何かしようというわけではありません。テーマは、主人公が自分のビデオカメラと同様、過去の忘れ去られたシステムというかフォーマットの中に閉じこもっているという点です。今世間で流通しているフォーマットは彼にとっては全く異文化で、ついていくことができないんです。それがいいことが悪いことかは別として。だから彼は昔の記憶に自分を閉じ込めていて、年代物のビデオカメラがそれを象徴しているわけです。
Q:この映画を観るとフィリピンが途上国であり犯罪が横行している危うい国であるというステレオタイプを強調してしまうように思いますが、監督のお考えはいかがでしょうか?
レッド監督:この映画はフィクションではありますが、現実のこともかなり映しています。特に、犯罪を目にした周りの人々がどのように対応しているかということに対して、いびつなものをいつも感じます。しかし、その一方でツーリストスポットももちろんあります。マニラのような都市以外にも、7000以上の島がフィリピンにはありますから、混沌としたところもありますが、とても美しい国だと思います。
パメラさん:私も映画を撮っているので、ストーリーテラーとしての見解をあえて言わせてもらえるならば、フィリピンが第3世界であるということは間違いなく、腐敗や貧困といった問題も多いです。それは腐敗や貧困です。貧困は人口の9割の人たちが、最低以下の生活、貧困ラインぎりぎりの生活をしているわけですね。だから、それを隠さずに、現実を見せることは、大事だと思います。けれど、外に向かって「助けてくれ」と言うつもりではありません。
レッド監督:9割の人が、そのような生活をしているのであれば、映画10本の内、9本がそうなってもおかしくはないですよね。闇の部分を描いているということに加え、マーベンという主人公の環境も描いています。ただ、これでフィリピンに行くのをやめようとは思わないでいただきたいと思います。楽しいところもありますし、悪いイメージを植えつけようと思って作ったわけではなく、アーティスティックな側面と、ストーリー的な展開でこうなっているということを付け加えたいと思います。
Q:携帯で撮るというのは、ある意味また別の次元で、そこだけで終わってしまうということもあれば、逆にそれが世界に、広くウェブで繋がったりすることもあります。例えば今回使った映像が、犯人逮捕に繋がったこともあったのでしょうか。監督はテクノロジーに関してはどう思っていますか。
レッド監督:マーベンは繋がっていない人のよい例だと思います。彼は現実を見ていなくて、レンズを通してしか世界を見ることができなくなっている。だから、現実にかかっている映画が上映されると寝てしまう、という設定にしています。過去にとらわれている人なのです。ビデオがどのように役立っているかというと、実際に病院で火事があったとき、そこにかなりのニュースチームの人がいて、偶然撮った暴力のシーンが逮捕に繋がったことがありました。このようにウェブでどんどん感染していくように広がるビデオは、諸刃の剣であるという言い方ができると思います。そして最後にマーベンは、ある意味、贖罪というか、そのような気持ちからビデオをアップロードして、そこからまた展開があるわけです。
石坂PD:ありがとうございました。監督、最後のメッセージをお願いします。
レッド監督:フェイスブックのページもあるので、ぜひ「いいね!」を押してください。本当に映画を観て下さってありがとうございました。
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