10/21(月)アジアの未来『起爆』の上映後、キム・ジョンフンさん(監督/脚本)、キム・ソンウンさん(プロデューサー)、パク・ソンフンさん(撮影監督)、ピョン・ヨハンさん(俳優)が登壇し、Q&Aが行われました。
Q:緊迫感に溢れたいい映画でした。最後に主人公は警察に捕まらずに逃げおおせた形になっていますが、現実的にはあの状況で警察に捕まらないのは少しおかしいと思います。(会場爆笑)
物語上どのような設定をして、あのようなラストにしたのか、お聞かせください。
キム・ジョンフン監督(以下、監督):最初にこの素材を取り上げたとき、警察をどう扱うかが課題でした。私は主人公が最後まで警察に捕まらないでいる設定にしたいと考えました。おっしゃる通り、警察が最後まで彼を逮捕できないと、とても無能に見えたり、非現実的になったりする危険性もあります。しかし、多少奇妙に映るとしても、やはり私はあくまでも捕まらない設定に固執しました。主人公が社会の中に組み込まれ、溶け込んでいく存在であること、この世の人は大なり小なり何か隠して生きていることを見せたかったからです。
Q:韓国のオリジナルタイトルは『野良犬』ですが、いろいろな動物の中から犬を選ばれたのは、より人間に近く、監督が先ほどおっしゃったように隠し事をしながらも、社会に染まっていきやすいという意味をもたせたのでしょうか?
監督:今の方がうまく説明してくださいました。野良犬は社会の中に存在しながらも、完全に入り込めていない強烈なイメージがあります。黒澤明監督の『野良犬』も頭に浮かびました。
石坂PD:ピョン・ヨハンさんが演じた主人公はコンプレックスを抱える研究者という複雑なキャラクターですね。どのように役作りをなさったのですか?
ピョン・ヨハン(以下、ヨハンさん):私が初めにシナリオを読んだとき、『野良犬』というタイトルに強い衝撃を受けました。タイトルを見て、シナリオを読んでいく過程で、私の演じた主人公ジョングの印象がどんどん変わっていったと思います。監督と話し合いを重ねながら、私が最も重点を置いたのは、主人公が本当は社会に溶け込んでいきたいのだけれど、うまくできないでいる点を表現すること。そのモデルとして、野良犬を思い描きました。最初野良犬は怖いもの知らずで、村に溶け込もうとしますが、結局は村人に追い出されてしまい、周りをうろつくことしかできないですよね。主人公もきっと野良犬のような人物なのではないかと考え、どんどんとこの役に入り込むことができました。あとは撮影の時期があまりに寒すぎたため、余計に役に集中できたと思います。
石坂PD:教授は、靴下で絞ったビールを本当に飲まれたのですか?(笑)
ヨハンさん:少なくとも実生活ではそんな教授に出会ったことがありません。この映画で初めて遭遇しました(笑)。中にはそういう人もいるかもしれませんが。
監督:私自身ではないですが、大学時代のサークルで実際にああいう光景を見ました。
Q:ヒョミンのキャラクターについてお伺いしたいのですが、映画の中では実家がお金持ちであるとか、刑事がかばう価値もないと言っていますが、あまり詳しいバックグラウンドは出てきません。それがかえって、彼の怖さを引き立てていたのだと思うのですが、設定上何かしら彼の背景が決まっていたようでしたらお伺いしたいと思います。
監督:実際にヒョミンという人物を細かく設定していません。韓国でも他の国でもあるでしょうが、権力さえあれば罪を犯してもうまくすりぬけてしまうような金持ちで、何らかの権力を持った家の子という設定で、それ以上の細かい設定は必要ないかと思いました。
Q:緊迫感があって面白い映画だと思いました。監督が脚本を書かれたということですが、この脚本を思いついたきっかけを教えてください。
監督:まず長い間、私自身が爆弾や爆発というものに魅了されていました。社会通念上から考えるのではなく、単純に爆発することが痛快だと思ったり、かっこいいと思ったりしました。なぜ自分は爆発や爆弾にこんなに魅了されるのか、なぜかっこいいと思うのかと自分なりに考えてみました。そうすると、自分の中になんらかの押さえつけられたもの、怒りみたいなものがあるのではないか。だからこそ、爆発に快感を覚えるのではないか。それをもう少し探求してみようというのがこの映画のスタートになりました。それをさらに掘り下げていって、実際にジョングに爆弾を作らせたのはペク教授だったり先輩だったりするのですが、爆弾で死んでしまうのはヒョミンであると。こういうことを見せることで、観た人に考えてもらいたいなと思ったのです。というのも爆弾は痛快なツールではなく、どんな意図で爆弾に作ったにせよ、結局自分が当初望んだ快感を得られることはないということを表現しました。
石坂PD:撮影監督のパク・ソンフンさん、撮影は寒い時期で、爆発するタイミングなどご苦労あったと思うのですが。
パク・ソンフンさん(以下、ソンフンさん):撮影は昨年12月から今年の1月にかけてでした。この冬は例年に比べると特に寒くなってマイナス17℃~18℃まで下がりました。出身がソウルより南の地方なので、それほどの寒さを感じたことはなかったのですが、撮影の時はあまりにも寒くて、撮影しながら頭の中でコントラストなど考える余裕すらありませんでした。私のみならず他のスタッフも、俳優のみなさんも演技するのに苦労があったと思います。やはり今回の作品で苦労した点は寒さでした。
石坂PD:白い息が出ていて雰囲気がありました。それからキム・ソンフンさん、スタッフ・キャストとも若いクルーですが、プロデューサーとして資金集めは順調に行ったのでしょうか?
キム・ソンウンさん(以下、ソンウンさん):もちろん少ない予算でしたし、撮影期間は短かったです。それでも撮影に取り組むまでの準備期間ですとか、ポストプロダクション、編集等にかけた時間を考えれば、決して短期間ではなかったと思います。ただ、キム監督もパク撮影監督も韓国映画アカデミー出身ですので、支援を受けることができました。カメラ装備など主として使う機材などずいぶん助けられましたし、シナリオ自体がとても良かったのでそれ以外の多くの助力を得ることができました。おかげで良い俳優に参加していただき、爆破シーンの特効チームも一流のチームで、アクションチームも韓国で一番と呼べるチームが、車代ぐらいで協力してくれたので、多く助けてもらいました。
監督:参考までに付け加えますと、韓国映画アカデミーは国で支援している国立の映画アカデミーです。
石坂PD:名門ですね。実は今年の「アジアの未来」という部門は、各国の映画学校対決の様相で、韓国をはじめインドやトルコなど監督は各国を代表するような学校のご出身でして、そういう目で見るとまた面白いと思います。韓国の場合、こういう若い人のインディペンデント映画にも支援があります。日本でもインディペント映画を考えるというのを他の劇場でやっていますが、そのあたりが日韓の違うところです。
Q:撮影期間が短かったということですが、撮影日数はどれぐらいだったのでしょうか?
監督:撮影回数は35回です。日数でいうと45日から50日ぐらいだったと思います。
石坂PD:最後に一言ずつお願いします。
ソンウンさん:みなさん遅い時間まで残っていただきありがとうございます。もう1人の主役のパク・ジョンミンさんは撮影中でここにはこられませんでしたが、今回のことをぜひ伝えたいと思います。撮影スタッフにも感謝したいですし、映画を支援してくださったカンパニーにも、そして東京国際映画祭にも感謝したいと思います。
ヨハンさん:皆さん、本当に遅くまで話を聞いてくださってありがとうございました。
ソンフンさん:楽しく観ていただいたようで、(日本語で)ありがとうございます。
監督:今回の映画は私にとって初めての長編作品となりました。観客の皆さんに直接お会いするという経験も初めてで、こうした大きな劇場で日本の皆さんとご一緒できてとても嬉しく思います。それと同時に、現実味がありません。でものちのちこの瞬間のことを思い出す、忘れられないそんな日になると思います。