10/19(土)コンペティション部門『オルドス警察日記』上映後、ニン・イン監督、ニン・イン監督の姉で共同脚本を担当したニン・ダイさん、そして作品で夫婦役を演じたワン・ジンチュンさん、チェン・ウェイハンさんをお迎えし、Q&Aが行われました。
矢田部PD:この実在した警察官の物語をお知りになったのはいつか、映画にしようと思ったのはどうしてかお伺いします。
ニン・イン監督(以下、監督):この警察官は2011年に亡くなられ、私は2012年に初めてこの話について知りました。この話に関するドキュメントなどを読み、彼を知る人達にもインタビューをしました。彼の人生や今の中国について伝えている素晴らしい語で、映画を作る事ことになり、一番寒い季節のモンゴルで撮影を行いました。
Q:監督に対して、ワン・ジンチュンさんをキャスティングした理由はなんですか?またワン・ジンチュンさん、この役をどのように演じられたか教えていただけますか?
監督:ワン・ジンチュンさんが元から素晴らしい役者さんだったという事と、私がずっと探していた役者が、本物のハオ・ワンチョンさんに似ている人でした。そして、この映画の中では14年間のハオ・ワンチョンを演じなければいけないのです。28歳から41歳で亡くなるまでの長い年月ですので、そこを上手く表現していただけるかどうかというのは、未知数でありました。そこの部分の役作りについてはワン・ジンチュンさんにお話いただきましょうか。
ワン・ジンチュンさん:最初に監督から電話をいただいて、脚本を読ませていただいて、監督にお会いしたんですけれども、その時の監督の一言が私をとても感動させました。その時私は「監督、なぜこの映画をお撮りになるんですか?」という風に聞きました。監督は「ハオ・ワンチョンという人間をしっかりと描きたい。社会の背景だけではなく、その中にある人間性をきちんと描きたい。」とおっしゃったので、その言葉に私はとても感銘を受けて是非やってみたいと思いました。28歳から41歳というこの年齢を演じ切れるのかという問題や、ハオ・ワンチョンが辿っていく仕事、環境の変化も自分がきちんと演じきれるかどうか少し不安ではありましたし、私にとっては大きなチャンレンジでもありました。だからこそ、私はこの人物に興味を持ち、是非やってみたいと思ったわけです。
Q:主人公が最初に遭遇する未解決事件の被害者は全員女性で、後の靴屋の事件も女性が被害者ということで、重要な事件の被害者は女性ですよね。主人公の奥さんも犠牲者という風に考えると、女性が犠牲になっているという一貫性に意図はあったのでしょうか。
監督:このストーリーの中では人生の価値ということにも触れているのですけど、このヒーローは亡くなってしまっていまして、私自身も感動しましたし、素晴らしいストーリーだと考えています。ストーリーを見せつつも家族はどうだったのか、彼の親しい人たちはどうだったのかを考えざるを得なかったのです。そういった環境のことを考えると、彼の人生をもっと安全に過ごすべきだったし、家族と最後まで添い遂げるべきだったのではないかと思います。
今回、この作品の家族や兄弟や色々な方にインタビューを行ったんですけれど、奥様だけはなかなかお会いしてお話することができなくて、現実を受け止めきれていないということもあって、1年経ってようやくお話が聞けたというのがあります。映画を観る度に、どうしてもその苦しさというものが蘇ってきます。
そして、ご指摘のように色々な人たちの色々なレベルでの犠牲が描かれています。この主人公の仕事に対して、そして自分の責任に対して犠牲を払っていますし、家族も犠牲を払っている。でもそれが人生なのだと私は感じています。今のご質問は、私が映画を作ろうと思った真の理由に触れていたので、胸がいっぱいになってしまいました。
矢田部PD:今の監督の言葉を受けまして、チェン・ウェイハンさんにお伺いしたいんですけれども、どのようなお気持ちで演じられましたでしょうか。
チェン・ウェイハンさん:最初、監督は私のキャスティングについて悩んでおられるようでした。現実的な話として、この”ハオ・ワンチョンの妻”と私の年齢はかなり違いましたし、その年齢の幅を演じきれるかということについて迷っているようでした。
しかし(舞台である)オルドスへ来た次の朝に監督に会った際、監督から「ハオ・ワンチョンの妻が唯一取材に応じたとき、『私は一生彼を待ち続けていました。そして夢の中でもひたすら彼を待っていました』と言っていた」という話を聞かされ、私は本当に感動しました。その私の雰囲気を見て監督は、これでいけるんじゃないかと思われたようです。
人は誰しも、“待つ”ことがあります。それはある人を待ち続けることかもしれないし、ある出来事を待ち続けることかもしれない。ただひたすら待っている。でもその待った結果が、自分の期待とは違うことになるかもしれない。でもその待つということは人生において本当によくあることです。そして私はこのハオ・ワンチョンの奥さんについて、被害者だとか犠牲者だというふうには捉えていません。最初奥さんは自分の夫と、警察官としての仕事にどうしても徹底的には理解できない部分、何かしらわだかまりとなっている部分が心の中に残っていたわけです。しかし、それが人生というわけではないのかなと私は思います。
矢田部PD:最後に監督から一言ご挨拶頂けますでしょうか。
監督:コンペティション審査委員長であるチェン・カイコー監督が開会式の際におっしゃった言葉を信じています。それは『人間性というものをしっかりと描くこと、人間性の光を以て闇を照らすということ、それが映画をつくるということだ』です。私たち映画製作者はまさにそうした姿勢で映画を作っていくわけです。それを信じています。