10/18(金)アジアの未来部門『今日から明日へ』の上映後、ヤン・フイロン監督、チョウ・イェンミンさん(プランニング・ディレクター)、スン・ティエンさん(撮影監督)、ワン・ヤーシーさん(プロデューサー)、ワン・タオティエさん(俳優)、シュー・ヤオさん(女優)、イン・シャンシャンさん(女優)が登壇し、Q&Aが行われました。
Q:この映画の主人公たちのように、大学を卒業しても就職ができない人たちはどれくらいいるのでしょうか。
ヤン・フイロン監督(以下、監督):中国だけでなく世界中そうだと思うのですが、大学を卒業して仕事が見つからない、あるいは職を探しているという人はたくさん、たくさんいます。正確な統計はないのですが、中国では報道によると毎年約600万人が大学を卒業しています。
Q:ビールの瓶を投げるシーンは、何テイク必要としたのでしょうか。瓶を投げたときに、2本は狙ったところにいったのですが、1本はゴミ箱に入ったので、その絵を撮るにはすごく大変だったのではないかと思って聞きました。
監督:3テイクでOKがでました。私はこのシーンがすごく好きで感動しました。これはその日の晩に撮り終わろうと思っていたのですが、カメラマンと相談しまして、役者の雰囲気というか気持ちが合っていないということで、翌日の夜に持ち越したんです。別にここに入れろとか、ここに当てろとか演出していなくて、とにかく気持ちのままに投げてくれと。要するにその時間と、その彼らの気持ちが大事だったので、どこに当てるということは問題ではなかったんです。
Q:この映画は北京の社会問題をとりあげていますが、監督自身が観客にむけて伝えたいと思うメッセージがあれば教えて下さい。そしてなぜこの少し前の社会現象を、何年か経った今、撮ろうと思ったのか、きっかけなどがあればそれも教えて下さい。
監督:私はこの映画と同じような経験をしてきました。この映画を撮るまでに10年掛かりました。(言葉につまる監督、涙ぐむ)(会場拍手)
数年前にこの映画を撮りたいと準備をはじめましたがなかなか資金が集まらず、ずっと準備という状態が続きました。僕はこの映画を通して皆さんにこうした弱い一群の若者たちがいる、でもこうして頑張っているのだということをお伝えしたかった。
確かに数年前に蟻族と呼ばれる人々を撮ったドキュメンタリーがありましたが、今もまだこういう若者は存在していますし、北京に限らず中国の他の大都市にもまだまだ彼らのような人々がいるということで撮りました。しかもこれは中国だけの問題ではなくて、世界中の各地にある問題だと思います。
Q:最後の天安門広場のシーンにはどのような思いが込められていますか?またなぜあの場所で、なぜ画面全体を赤くするということしたのかということを伺いたいです。
監督:最初の質問は監督からお答えします。彼らがもし北京にきたら最初に(天安門に)来たかもしれないし、もしかしたら最後に北京を離れるときに初めて来たかもしれない…そういう思いを込めて天安門で撮りました。
チョウ・イェンミン(以下、イェンミン):この質問(色について)に関しては世界各地で訊かれました。フランスでも質問されました。イタリアのアントニオーニ監督も天安門を撮っているのですよね。色に関しては個々人で色々な理解をして、意味を感じるものだと思うので、これについてはお答えしにくい質問です。私なりの思いは赤だった、ということです。
Q:フォークダンス曲のトロイカが使われるシーンが印象的でしたが、あのシーンは三人で踊る曲であるがゆえにトロイカを使用したのか、それとも他にトロイカについての意味や思い入れがあるのかを教えていただきたいです。
イェンミン:あれは実は想像の中での踊りなので、少しシュールな感じがすると思います。彼らの内心の喜びを表したかったので、こみ上げる思いを踊りで表現したのです。
Q:俳優さん全員に質問です。一番印象に残ったシーン、思い入れのあるシーンがあれば教えて下さい。
ワン・タオティエ(以下、タオティエ):私は自分の好きなシーンがカットされたと思っていたのですが、今みなさんがご覧になったバージョンにはあると監督の方から知らされました。そのシーンというのは雨の中でワンシーと喧嘩をするシーンです。
シュー・ヤオ(以下、ヤオ):私は泣くシーンが多かったのですが、その中でも最後の天安門ではわたし一人が泣くシーンだったので(印象に残っています)。私は三歳のとき初めて父と北京にきたのですが、それ以来五歳から毎年のように北京に公演にきていました。私にとっては芸術や映画というものは、北京に対する思いと重なっているので、特に心から感じるものがあったシーンでした。
イン・シャンシャン(以下、シャンシャン):私はジャンホエというあまり出番の多くない役でしたので、どのシーンもすごく印象深いものでした。私の役は非常に内心に葛藤のある役でしたので演じるのは難しかったのです。特に思い出に残っているのは早朝の窓の前、私の後ろ姿(が映っており、私の)隣にワンシーが寝ているというシーンです。
Q:キャストのみなさんにお聞きしたいんですけれど、役作りをするうえで監督とどのようなお話をされたのかお聞きしたいので、お願いします。
タオティエ:私たちはクランクインの半月前に、監督と一緒にクルーに入りました。この映画は、皆さんも観ておわかりだと思いますが、気持ちが大きく変わるということはなくて、彼らの状態を描写していくという、わりとそういう淡々とした描写だと思うので、監督の要求としては、その状態になってほしいと。
つまり、だから彼ら(登場人物たち)と同じような生活をしてほしいということで、この役柄が感じるような、その感じることを体験してほしいと言われました。実際に演技に関しては、どちらかというと俳優の自由というか、俳優に発揮させたという、そういう感じです。
ヤオ:私自身、北漂(ベイピャオ)というんですが、地方から北京に出てきて、俳優とかいろんな仕事を探している人たちの1人なので、このような、自分と同じような役に巡り合えたことはとても幸運でした。
ただ私は実はですね、ヒロインは別に決まっていて、臨時で、急に変わって私がヒロインになることになって、そういうわけで、みんなよりも後にクルーに入りましたので、半月前に入ったんですけど、すごくプレッシャーがあったんですね。で、撮影の前半も、なかなか役に入り込めないというか、そういうことがあったんですけど、必ずミーティングのときにみんなにアドバイスをもらったり、監督やカメラマンやプロデューサーに助言もしてもらえたので、とてもその点に関して感謝しています。あと、ビール瓶のシーンなんですけど、ワンテイク撮ったときに、監督が泣いてしまったんですね。私ももちろん、ランランの気持ちに入っていたんですが、監督が泣くのを見て、ああもっとがんばらなくちゃというふうに思いました。
シャンシャン:私たち4人の主たる俳優のなかで、私の役だけはいつも何かこう、何て言うんでしょうか、抑えられているというか、じっと耐えるようなそういう役、そういう感情ばかりで。
それから主に私の出てくるシーンは、ワン・シューという男の主役を助けるという、そういうシーンなんですね。なので、いかにしてその彼をリアルに、彼の悩みをリアルに見せるかっていうのが私の役目だったんですけれど、そういう点で監督とはずいぶん話し合いをしました。また私の役で、ほかの3人の役者がより浮き彫りになるように、でも、なおかつ出番は少ないけれど、このチャン・フイをもっと輝かせるにはどうしたらいいかということを、ずいぶん監督と討論をしました。ワン・シューと、私の演じたチャン・フイとの(間の)、何ていうんでしょうかね、感情はどういうものなのかということをずいぶん監督と討論しました。
Q:こんにちは。とても面白かったです。俳優さんにおうかがいしたいのですが、みなさんおっしゃっているように、ビール瓶のシーンというのは、私もとても印象的だと思ったのですが、そのうえに、3人で歌を歌うシーンがあったと思うんですが、最近の中国映画を観ていて、その若者がその時代の背景に合った曲を歌うシーンがどれもとても印象的だったんですけれど、あのシーンの音楽に対する思いなどがあったらうかがいたいのと、何ていうアーティストの曲なのか知りたいと思います。
イェンミン:この曲は別に今流行っているわけではなくて、台湾の「私は小さな小さな鳥」という歌だそうです。これはたまたま、プロではなくて、街で大道芸人、映画に出てきますよね、あのポリバケツをドラムの代わりにしている、彼らを呼んできて。この歌を使ったのは、ちょうどこの歌が主人公たち、この映画のテーマにふさわしいと思ったんですね。鳥が一生懸命高く飛ぼうとするけれど、飛べない、もがいているというのが、まさに彼らの運命、彼らにぴったりだと思ったので、この歌を使いました。
司会:まだお話になっていない方がお2人、撮影監督、プロデューサーの方が。一言ずつ、コメントいただけますか。
スン・ティエン:みなさん、この映画を気に入ってくれたらうれしいです。
ワン・ヤーシー:みなさま、本当に真剣にこの作品を観てくれて、そして中にはこの作品で涙を流してくださっている人もいらっしゃったようなので、とても感動しています。クルーを代表して、お礼を言いたいと思います。ありがとうございました。
司会:ありがとうございました。では最後に監督に、締めていただきましょうか。
監督:みなさん、本当にありがとうございます。こんなにたくさんの人が観にきてくださるとは思いませんでした。ありがとうございました。
アジアの未来部門
『今日から明日へ』
監督:
ヤン・フイロン
キャスト:
タン・カイリン
シュー・ヤオ
ワン・タオティエ
イン・シャンシャン