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2013.10.30
[イベントレポート]
「今の若者たちの世代にまで南北の分断という不幸を持ち越させてはいけない」-10/24(木)コンペティション『レッド・ファミリー』:Q&A

レッド・ファミリー

©2013 TIFF

 
10/24(木)コンペティション『レッド・ファミリー』上映後にQ&Aが行われ、イ・ジュヒョン監督、キム・ギドクさん(エグゼクティブ・プロデューサー/原案/編集)、キム・ユミさん(女優)、パク・ソヨンさん(女優)、チョン・ウさん(俳優)が登壇しました。
 

※エンディングに触れるQ&Aがあります。ご注意ください。

 
矢田部PD:東京国際映画祭にこの作品をワールドプレミアで出品していただき、本当にありがとうございます。まず皆様から会場のみなさまに一言ずつご挨拶いただけますでしょうか。
 
パク・ソヨンさん:みなさんこんにちは。私たちが一生懸命撮影に臨んだ作品ですので、皆様が楽しんでくださったことを願っています。
レッド・ファミリー

©2013 TIFF

 
チョン・ウさん:みなさまお会いできて嬉しいです。みなさまの貴重なお時間を割いていただきありがとうございます。皆さんにとってこの時間が幸せな時間になりますように。
レッド・ファミリー

©2013 TIFF

 
キム・ユミさん:みなさまこんにちは。今回この東京国際映画祭で何度か上映をしていただき、こうして観客のみなさんとお話できる機会も与えていただき光栄です。ありがとうございます。
レッド・ファミリー

©2013 TIFF

 
キム・ギドクさん:台風が接近中であると聞いております。大きな被害もなく安全に通り過ぎてくれることを願っています。
レッド・ファミリー

©2013 TIFF

 
イ・ジュヒョン監督:みなさまこんにちは。監督のイ・ジュヒョンです。映画というものは撮り終えた時点で過去のものになると思います。ただ、この『レッド・ファミリー』という映画が東京国際映画祭で初めて上映されて、みなさんに観ていただくことによって、みなさんにとって現実となり頭の中でこれからも再現される、そんな機会になったことをとても嬉しく思っています。ありがとうございます。
レッド・ファミリー

©2013 TIFF

 
Q:この映画は今の北朝鮮の現代社会をリアルに描いていて、緊迫感があり面白かったです。こんな素晴らしい作品をここで見られて本当に嬉しいです。監督は演出で特に工夫した点はありますか?
 
監督:映画を楽しんでいただいてありがとうございます。演出で意図したのは、韓国の社会がもっているジレンマを、家族、二つの言葉に圧縮して表現できるのではないかという点です。世界で唯一、同じ民族にもかかわらず理念が違うために分断されている朝鮮半島の現実を描いています。この映画の中には家族のフリをしなくてはいけない、いわゆる「レッド・ファミリー」が出てきます。そしてその一方で、韓国の資本主義社会に暮らす家族がいます。北に暮らす自分たちの本当の家族を助けるために、隣に暮らしている家族を殺さなくてはならないというジレンマに陥るわけです。チャン・スーという韓国側の家族とミンジという偽装家族をスクリーンのなかで、演出上カメラや照明を使って対比させています。彼らの本当の家族は北にいるのだけども、お隣に住んでいる家族のように本当の意味での家族になりたいという欲望をみんな持っている。本当の家族はいるのだけれども、この偽装であったはずの家族が本当の家族になりつつあるのではないかと。だからこそエンディングの船の上において、いつも指令を遂行しなくてはいけない関係性にあった人たちが、お互いをママ、おじいさん、そしてミンジとそれぞれの家族の呼び名で呼んでいた。そこで、本当の家族になったのだと思い、きちんと人間味を描き出せるようにと努めました。
 

Q:ミンジが生きているというエンディングでしたが、彼女が死ぬという展開をとるべきか悩んだことはありましたか?それについて監督とプロデューサーのキム・ギドクさんの間でお話がされたことがあったならば教えてください。また、ミンジ役のパク・ソヨンさんはミンジを演じるなかで面白かったことはありましたか?
 
キム・ギドクさん:当初このシナリオを書いたときは、最後にミンジも死ぬ予定でした。ただ、実際に映画化していく過程で手直しをしていって、最後には何らかの希望を示す必要があるのではないかというふうに考え、ミンジを生かすことにしました。おそらく本当の工作員であればミンジもあの場面で死ぬことになるでしょう。しかしこれは映画ですので、あくまで生かしておきたいと思いました。その意図するところは、現在南北が分断されておりますが、その分断を作った既存の世代でこの状況をもう終えるべきであろうと。今の若者たちの世代にまでこの南北の分断という不幸を持ち越させてはいけないと、私はそれに反対するという意味で生かしておきたいと思いました。今まで、私たちが抱えてきた不幸を、決して次の世代まで背負わせてはいけないと思ったのです。
 
パク・ソヨンさん:今まで私は誰かの子役ですとか、ちょっとした端役が多かったので、ひとつの作品のなかでこれだけの分量を、これだけの比重をもって演じるというのは初めてのことでした。ですからもちろんプレッシャーを感じることもありましたが、期待するところもありました。本作の中では普段使い慣れない北朝鮮の言葉を使ったり、アクションをしたりと本当に色々な経験ができたので、演じていてとても楽しかったです。
 

矢田部PD:イ・ジュヒョン監督、そもそもキム・ギドクさんに意見を言えたりするのですか?
 
監督:先ほどキム・ギドク監督からお話があったとおり、キム・ギドク監督がやっぱりミンジを生かしておこうという意見を出され、私もそれは同じ意見でした。家族の中にお祖父さんと、お父さん、お母さん、ミンジという家族がいるのですが、ある意味4人はそれぞれの世代を代弁しているというふうにも思います。というのも、お祖父さんは南北が分断される以前のことを知っていて、お父さんとお母さんはまさにその分断を経験した世代、ミンジは生まれた時点ですでに分断されてしまっている時代の子なのです。そして最後にミンジが生き残って、チャンスと会います。そのときカメラが二度ほど二人の顔の間を行ったり来たりします。それがある意味、南北の距離を表現しているのではないかと私は捉えています。いつか、チャンスとミンジが肩を抱き合ったような現象が南北の間で起きるといいなあ、そういう距離感になってほしいなあという願いがこもっています。
 
Q:今回、キム・ギドク監督は製作と脚本に携わっていらっしゃいますが、ご自身の監督作品との違いがあるのでしょうか?また、作品が完成して初めてご覧になったときの感想をお聞かせください。
 
監督:もしかすると、キム・ギドク監督は皆さんには怖そうに見えるのかもしれません。ただ、実際に意見を交わし様々なことを相談する時は、心が開かれていて、私の意見も受け入れてくださいました。そもそも固定観念にとらわれるということがない方で、シナリオを脚色していく段階でも本当に多くの意見を交わし、私の出した意見を受け入れてくださったり、共に悩んでくださったりしました。あくまで私を信じて演出を任せてくださったので、撮影に入ったら現場にいらっしゃることはありませんでした。撮影に入る前の準備段階で、私があまりにもいろいろなことを考えすぎて頭の中が混乱してしまった時には、「初心を忘れてはいけない。本来すべきことはここなのだよ」と忠告もしてくださいました。私は様々なことを考えて、言ってみれば幹からあっちにもこっちにも枝が伸びていってしまったのですが、必要のない枝を払って、本質であるべき幹、根底というのを示してくださいました。とてもありがたかったです。
 
キム・ギドクさん:まず一つめのご質問に対する答えです。私が脚本を書いて、演出を他の監督に任せて撮った作品はこれまでで4 、5本になると思います。『映画は映画だ』や『プンサンケン』、『俳優は俳優だ』、そして今回の『レッド・ファミリー』です。これらの作品を観てみますと、私自身が演出した作品よりも健康的に出来上がっており、より多くの方が観てくださいます。ですから私自身が演出をするよりも、ある意味いい結果を招いているのではないかと思います。
 
矢田部PD:チョン・ウさんとキム・ユミさんは、ご自身が出演されたなかで最も印象に残っているシーンはどれでしょうか?
 
チョン・ウさん:とても短い期間でこの映画は撮影されました。12回の撮影で、とてもたくさんの量を毎回撮影しました。期間でいうと約1ヶ月位だったと思います。ですから私はこの作品自体がひとつの場面のように感じています。あえて記憶に残るシーンを挙げるとすれば、私が演じた夫とキム・ユミさんが演じてくださった北朝鮮の女、この二人の本能的な姿を描いたシーンでした。本能的ということは、ある意味でかわいそうな姿であるといえると思います。本編ではカットされているのですが、島に出かけたときのテントのなかのシーンで、2人のキスシーンがありました。2人の愛情が描かれたシーンがあったのです。編集段階でカットされたようですが、とても記憶に残っています。あとは島での撮影が本当に寒くて忘れられません。ただ、監督をはじめ、俳優の皆さんがとても温かく接してくださったので、私の中でこの『レッド・ファミリー』という映画は温かい映画として、これから先も記憶に残っていくと思います。そしてキム・ギドク監督が脚本を書かれて、その作品に出演できたということを、とても光栄に思っています。
 
キム・ユミさん:この『レッド・ファミリー』という作品は私の演技人生において、本当に忘れられない作品となりました。全ての瞬間が強烈に私の脳裏に刻まれています。劇中で人を叩くシーンがたくさんありました。チョン・ウさんにしても、パク・ソヨンさんにしても、私が無惨に何度も叩くシーンがありまして、自分が叩かれるシーンよりも大変で辛いことでした。おそらく日本の方がご覧になっても分かりづらい部分ではあると思うのですが、北朝鮮の方言を使わなければならなかった点も大変でした。しかし、監督が助けてくださったので、とても楽しく撮影に臨むことができました。
 
Q:どんなメッセージを込めてこの映画を作ったのですか?昔の維新の時代の色合いが少し見えて、忠実性が少しはずれているのではないか、と思いました。
 
キム・ギドクさん:私はこの作品の脚本を書いて製作をしましたが、昔の維新の時代の痕跡が残っているという点は違うと思っています。現実を見ると、昔のままで現実は何も変わっていないからです。この映画はイデオロギーを示そうとしているのではなく、あくまで家族は何なのか、ということに焦点を当ててシナリオを書いていますし、映画もそこを取り上げています。ですから北も南も兄弟だという考え方、家族だという考え方で今後問題を解いていくべきではないか、ということを表現しました。
 
コンペティション
レッド・ファミリー

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