ワールド・フォーカス部門
台湾電影ルネッサンス2013
『総舗師 ― メインシェフへの道』:Q&A
登壇者: Q&A: チェン・ユーシュン(監督/脚本)、リー・リエ(プロデューサー)、イエ・ルーフェン(プロデューサー)
「総舗師」とは、屋外の宴席で腕を振るう出張料理人のこと。20年以上前の台湾では、「愚人師」「鬼頭師」「蒼蝿師」の3人の総舗師が、名人として並び称されていた。「蒼蝿師」を父に持つ少女シャオワンは、アイドルを夢見て家出したが、父の死をきっかけに傾いた家業を継ぐことを決意する。しかし、料理は初心者だった…。
『熱帯魚』『ラブゴーゴー』で1990年代の台湾映画を牽引した喜劇王、チェン・ユーシュン監督の16年ぶりになる長編映画。Q&Aでは、久方ぶりに監督の勇姿に温かい拍手がおくられた。
石坂PD:チェン・ユーシュン監督のほか、プロデューサーのリー・リエさん、イエ・ルーフェンさんにもお越しいただきました。ひと言ごあいさつをいただきたいと思います。
リー・リエさん:東京に来たのは10数年ぶりです。こうして皆さんにお目にかかれて本当にうれしいです。映画をお気に召していただければいいなと思います。
イエ・ルーフェンさん:今日ご覧になった作品の楽しさを、家まで持ち帰っていただければうれしいです。ご覧いただいたように、台湾には皆さんがよくご存知の軽食類だけではなく、こんなにもおいしいものがありますので、どうぞみなさん台湾にいらしてくださいね。
チェン・ユーシュン監督(以下、チェン監督):皆さんありがとうございます。ご覧になって、楽しい気分になっていただけたらうれしく思います。
石坂PD:リー・リエさんはシュイ・チャオレン監督の『Together』に俳優として出演されていて、ルーフェンさんは『失魂』もプロデュースされるなど、皆さんいろいろな作品に関わっていらっしゃいます。
では早速、監督にお話を伺いましょう。監督、本当にお久しぶりです。チェン監督の復活を皆さん喜んでらっしゃると思います。この16年間はどんなことをされていたんですか?
チェン監督:CMを撮っていました。『ラプゴーゴー』を撮ったあとで台湾の映画状況が悪化し、観客がどんなものを求めているかを長い間模索していました。お金を稼がなくてはいけないのでCMを撮ったのですが、まさかそちらで人気が出るとは思ってもいませんでした。そうこうしているうちに16年経ってしまったのですが、自分としては1、2年休んだだけというような気持ちでいます。
石坂PD:リー・リエさんに出演していただくことは、お考えにならなかったのですか?
チェン監督:お二人にはエキストラで出てもらいました。エンドロールに流れる映像で、監督に怒られている3人のうちのふたりが、リー・リエさんとルーフェンさんです。演技はよかったのですが重要な場面ではなかったので、本編ではカットしました。
――台湾での大ヒットおめでとうございます。ウー・ニエンチェン氏が重要な役で出ていますが、このキャラクターにはどんな意味が込められているのですか。最初から彼に決めていたのでしょうか?
チェン監督:ウー・ニエンチェンさんが演じたハン・レンという名前には、徳のある人、素晴らしい人という意味があり、映画のなかでは、「おいしいものを分け与える人」という役割を果たしています。彼の作る料理をホームレスの人に分け与えて、社会のなかの人情を味わってもらうという、社会主義的な意味合いを持たせています。
ウー・ニエンチェンさんは有名な監督で脚本家でもあるので、ホームレスを演じてもらうのは心苦しかったのですが、どうしても演じてほしかったので手紙を出してOKをいただきました。でもニェンチェンさんは、カッコいいシェフを演じると思っていたようで、後で怒られてしまいました(笑)。
――台湾の映画を観るようになったきっかけは監督の『ラブゴーゴー』でした。『ラブゴーゴー』もこの映画も、ふっくらした女性が出てきますが、意図的にふくよかな女優さんを起用されているのですか?
チェン監督:台湾でも、太めの女性がお好きなんですかとよく聞かれます(笑)。CMを撮るときもスーパーモデルは回ってきません。私の撮るCMにはいつも太めの女性が出演しています。
男性たちの多くは、スタイルがよくて美人の女性に目が行くじゃないですか。だから私は、ぽっちゃりの女性たちに興味をもって、彼女たちのためにストーリーを作ってあげ、可愛く見せたいと思っているのです。
彼女たちと作品を作り上げていく中で――映画ではリン・メイシウさんがそうですが――、ぽっちゃりした女性はカワイイだけでなく、とても才能豊かなのだと思い知りました。でも、あんまり太りすぎるのはよくない。何をなすにも健康第一ですからね(笑)
石坂PD:監督自身は料理を作りますか?
チェン監督:私は食べる専門です。ご覧のとおり、私は以前よりも太っているでしょう? 人間にとって、生きているかぎり、おいしいものを食べるのは大きな喜びです。だからこの映画を撮ったのです。
――笑って泣いてすべて楽しめました。台湾映画は食を題材にした作品が多い印象がありますが、なぜ宴会料理を題材に選ばれたのですか?
チェン監督:台湾には昔から宴会文化というものがあります。お祝い事があると、家庭に宴会料理を作る総舗師を呼び、宴会料理をふるまうのです。私の小さい頃、40年前は社会が貧しかったので、宴会があると、普段は食べられないものが食べられ、おいしい飲み物も飲める。大人にそういう場に連れて行ってもらうのが、私たち子どもの楽しみでした。
宴会では、ひさしぶりに集まった人たちが話に花を咲かせ、宴会料理を通じて交流が繰り広げられます。宴会を催した主人は、一生懸命いい料理をふるまおうとし、料理人も最高の腕をふるって、いいものを作ろうとする。また招かれた側は、心をこめてその家の喜び事を祝う。まごころをもってふるまい、ふるまわれるところに宴会料理の意味はあります。
以前は映画のなかで描いているように、みんなで一生懸命手伝いながら、家族そろって宴会を盛り上げていくという温かい習慣があったわけですが、現代化とともにだんだんと少なくなり、最近は電話一本で値段だけ決めて宴会料理を持ってきてもらう家庭も増えています。
美食を楽しみ、料理を交えて、人情を通い合わせる。台湾文化の一つともいえる、この素晴らしい習慣も失われつつあります。料理を簡単に決めてしまうようになり、人情も薄くなり、人間同士の交流も簡単になってきています。そういう美しいものが簡単に消えてしまっていいのかという疑問から、この映画は始まったのです。宴席に呼ばれた料理人がどれだけ一生懸命に料理を作っているのか、この映画は伝えてくれるのではないかと思います。
――トニー・ヤンのセリフ回しが、独特の発音のように聞こえるのですが?
チェン監督:なんとお分かりになったんですか? 彼のセリフ回しと発音は、台湾のいろいろな地方の方言をミックスさせたものです。じつは映画が公開されてから、台湾ではこのセリフ回しが大人気になり、多くの人がトニー・ヤンの喋り方を真似しています。
トニー・ヤンはとてもカッコイイ男性ですが、特別なセリフ回しにして、少しだけヘンな感じを加えてみたのです。この喋り方にしたことで、彼の演じる役柄の誠実さを出すことができたと思います。みんな、トニー・ヤンがこんなにおかしな役をするとは思っていなかったのでしょうね。おかげで、映画も大ヒットしました。
石坂PD:ありがとうございました。総舗師という言葉が日本にはないので、タイトルをどうしようと考えました。「出張料理人」「ケータリング師」も候補でしたが、結局そのままにしました。いまのお話を聞いて、かつての台湾を象徴する宴会文化の代名詞と知って、そのままにしておいてよかったと思いました。監督には、これからもっと映画を撮っていただきたいと思います。皆さん、もう一度大きな拍手を!
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『総舗師 ― メインシェフへの道』