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2013.10.23
[イベントレポート]
「恋愛も自分のことも、他者の視線を通さなければ分からない」-10/19(土)コンペティション『ほとりの朔子』:Q&A

 
大学受験に失敗した朔子と高校生の孝史、周辺を取り巻くオトナの関係を描いた『ほとりの朔子』は、自然の光景の中に、二階堂ふみの伸びやかな魅力がきらめく一作だ。
『歓待』で第23回TIFF〈日本映画・ある視点〉作品賞を受賞し、海外の映画祭でも一躍脚光を集めた深田晃司監督と杉野希妃さん。日本映画の未来を担う2人の期待の新作が上映され、豪華キャストが登壇するとあって場内は熱気に包まれた。

 
矢田部PD:ワールド・プレミアの会場で初めてご覧頂いたお二人に、まずはご感想をお尋ねしたいと思います。
 
二階堂ふみ(以下、二階堂さん):大きなスクリーンで作品を観ることができて、いいなあと思いました。私が映画を好きな理由もそこにあるんですけど、映画を観ている充実感がありました。よかったです。
 
鶴田真由(以下、鶴田さん):深田監督は人間に愛があるなあと思いました。伝え方の温度がすばらしい。自分が出演した映画を誉めるのは申し訳ない気もしますが、凄くいい映画だと思いました。
 
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©2013 TIFF

矢田部PD:監督と杉野さんは、2010年の『歓待』で映画祭にご参加頂きました。あれから3年後の新作となりますね。『歓待』の後に、なぜこの作品を選んだのでしょう?
 
深田晃司監督(以下、深田監督):撮影したのは去年の夏で、それまで幾つかの企画を並行して動かしていた中から、この作品を撮ることにしたのです。前作と趣きが違うと言われますが、僕の中ではそんなふうに思いません。ドラマティックに何かを語るのではなく、いつ人と出会い、いつ別れるのか。そうした人物の出し入れとコミュニケーションを充実させて、映画をつくりたい気持ちは一貫しています。だから、これまでの延長線上でできた作品だと感じています。
 
矢田部PD:本作に決定するまで、杉野さんはプロデューサーとして、監督とどんなやりとりをされたのですか?
 
杉野希妃(以下:杉野さん):『歓待』が各国の映画祭で上映されたあと、時代劇やパリとの合作映画など、監督とはいろんな企画がありましたが、いずれもビッグ・バジェットとなるため、今回は前作をもう少し大きくした規模の作品をつくろうと仕切り直しました。観て頂いた方はわかると思いますが、深田監督の好きなフランスのある監督のようなタッチで映画を撮ったら面白くなるんじゃないかと、昨春から話を詰めていきました。
 
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©2013 TIFF

 
———グッと来るいい映画でした。二階堂さんは前面に出て来ないけど、芯のしっかりした役を演じている印象を受けました。ご本人はどう思っていらっしゃいますか?
 
二階堂さん:私は毎回作品に参加する時、自分のキャラクターをカッチリ決めないようにしています。現場の空気を感じたり、他の役者さんとコミュニケーションしながら、役を作っていくことが多いのです。今回は大人になりかけの子どもという立ち位置だったので、あまりしっかりしてなくてもいいかなと思って、周囲の流れに身を委ねるような気持ちで現場を楽しみました。朔子はわりかし自分に近い感じなので、リラックスして芝居できてよかったです。
 
矢田部PD:二階堂さんは主役でありながら、狂言回しのような役柄だったと思いますが、監督はどんな説明をされたのですか?
 
深田監督:脚本にすべてを込めてあるので、特に説明めいたものはしていません。役者がリラックスできる環境をつくるのが自分の仕事だと感じていました。それぞれの役者さんの素材の面白さが出たんじゃないかと思います。
 
———すばらしい映画をありがとうございます。映画の捉え方・感じ方は人それぞれですが、個人的には、朔子と鶴田真由さん扮する海希江が交わす会話で、国内と海外の価値観の対比が胸に沁みました。映画に描かれる独特の価値観は、『歓待』の海外映画祭での成功経験を通じて形成されたのですか?
 
深田監督:「人も国も同じ」という台詞があったと思いますが、大きな話をすれば、自分のことは自分がいちばんよくわかるという思想は嘘だというのが、20世紀の発見だったと思います。それは浮世絵がまず最初に、海外で評価されたことからもわかります。価値というのは、こんなふうに他者と接することで再発見されるのです。『歓待』は共同体と排除をめぐって展開される物語でしたが、今回は、恋愛も自分のことも他者の視線を通さなければわからないことを、大仰にならないように描きました。
 

杉野さん:私は海外の監督とも親交があって、特にマレーシアの監督とは親しくしていて作品をプロデュースしたこともあります。その時に知り合った地域研究者の方々とシンポジウムを開いたこともあって、その時には深田監督にも参加していただきました。こんなふうに内外の研究者が集まり、国や映画のことを討議するのはすばらしいことです。自分のことや日本という国について、いろんなことを気付かせてくれるからです。そうした経験から、国に対しても人に対しても、ドメスティックでない作品を作りたいと願っています。
 
矢田部PD:杉野さん演じる辰子の誕生会の場面では、アドリブのような軽妙な会話が繰り広げられます。深田監督がアドリブを採用するとは考えにくいのですが?
 
深田監督:いちばんアドリブ的な要素を増やし、即興の会話を入れ込んだ場面です。俳優には、自分と役柄が薄皮1枚でつながる気分で演じてほしいとお願いしました。即興が面白いのは、クオリティは保証できないけど、各人の個性が露わになるところです。ルールとしては、大学の先生役を務める大竹直さんを攻撃してほしいとお願いしました。大竹さんはすばらしい俳優ですが、兎吉(古舘寛治)と辰子はひどいことばかり言ってますよね(笑)
 
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©2013 TIFF

 
矢田部PD:鶴田さんと二階堂さんは演じていて、どんなことを思いましたか?
 
鶴田さん:大人のイヤらしさ満載の場面でしたね(笑)。みんな鎧を被ってるのに、なかば下ろしているような感じで、朔子が鼻で笑っているのがよかったです。
 
二階堂さん:大人は大変だなあと思ってました(笑)。会話を聞いている分には面白く、いま観たら、想像以上にニヤニヤしてるのでびっくりしました。
 
———朔子と孝史がパフォーマンスを見る場面がありますが、どんな意図があったのでしょう?
 
深田監督:最初の脚本では、山奥のカフェに行った2人が何か不思議なものに遭遇するという設定でした。大道芸にするか、ミュージシャンの音楽を聴くかと考えていて、結局、大道芸にしました。そこで、実際にパフォーマーとして活躍している知念大地さんにお願いしたのです。
意図が全くないと言えば乱暴になりますが、あの場面では、何かを考えられるような余白の時間をつくりたいと思いました。何の前触れもなく、ある出来事に遭遇し、感化される。朔子と孝史の目を通して、そんな余白の時間がつくれたらいいと思ったのです。
 
矢田部PD:本作は来年1月より、シアターイメージフォーラムでのロードショー公開が決定しています。プロデューサーの杉野さんから、観客への要望がありましたらどうぞ。
 
杉野さん:魅力的な役者が勢揃いした作品で、二階堂ふみちゃんにとっては17歳最後の作品です。鶴田さんのナチュラルな演技も素敵で、ホントに感謝しています。皆さん気に入ったら、ぜひツイッターなどで宣伝して頂けたらと思います。気に入らなかったら、胸の内にそっと秘めておいて下さいね(笑)
 
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©2013 TIFF

 

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