10/18(木)、ワールド・フォーカス部門出品作品『シチリアの裏通り』の上映後に、エレナ・コッタさんによるQ&Aが行われました。
司会は東京国際映画祭 矢田部吉彦プログラミング・ディレクターです。
矢田部PD:コッタさんは舞台の経験が長いと伺っているのですが、監督のエンマ・ダンテさんも舞台の演出家として有名な方です。この映画にコッタさんが参加なさったのは、そのような舞台でのダンテさんとの縁があったのでしょうか?
エレナさん:実際私は舞台の仕事をしていますが、映画の仕事もしていますし、テレビ映画の仕事もしています。エンマ・ダンテに関しては、エンマ・ダンテは舞台の経験が長いわけで、この作品が最初の映画作品になります。ですが、舞台で私たちは会ったことはないです。彼女はサミーラという人物を探していて、非常に多くのオーディションをして、多くの女優さんたちと会ったのですが、なかなか会えなくて、そして私と会ったときに、彼女が求めていたものがすぐに見つかったということで、彼女も非常に幸せだったという感じです。
矢田部PD:非常に奇妙な物語といいますか、コッタさんはこの脚本を読まれたときに、どのように思われたのですか?
エレナさん:脚本は実際には3本あって、2度書き換えられました。基本的にはそんなに大きく変わったことはないのですが、それが非常に自分としては気に入りました。この作品の物語はとんでもないっていうよりはある種の挑戦だということがいえると思うのですね。それは比喩的な意味も含めているのです。例えばこの映画のフィナーレに関しては、道がだんだん広がっていくのです。、広がって行くというのは明確な意味がありまして、何かというと、それを押し付けて締め付けるっていうことは意味がないということを意味しているのです。人間は戦争をしますけども、実際にはそのぶつかり合いを避けることはできるはずだと思うんです。だけれども実際には人々は戦争を求めてしまう、そういう意味で比喩になっているのです。特にこの映画でみられるように、本当にくだらないきっかけでひとりの人間の死を招いてしまう、それが戦争であってそれに明らかに反対しているという立場を取っています。
Q:エレナさんは実際にその場(ラストシーンの撮影)に立ち会われてはいなかったように思いますが、ラストシーンの鳩は非常に象徴的で、画面的にも効果を上げていると思います。あの鳩は監督による演出でしょうか?もしそうであれば詳しくお聞かせ下さい。
エレナさん:ラストシーンで鳩が映ったのは偶然ではないかと思います(笑)。例え鳩を餌を使って呼び寄せたとしても、使うということは他のシーンや他の人物から考えても難しいのではないかと思います。また、鳩といっても平和のシンボルである鳩ではなく、普通のその土地にいた鳩で、映画を撮っているあいだに馴れてしまったのであそこにいたのだと思われます。
Q:こんにちは、今日は素敵な映画をありがとうございます。とても複雑な役を演じられましたが、何か監督から要求されたこと、もしくはご自身で苦労されたことなどがあれば教えて下さい。また、日頃女優として心がけていらっしゃることがあればそれも教えて下さい。
エレナさん:ノン、難しい役ではありません。(笑い)役者の仕事というのは職人の仕事です。いつも言うのですが、例えば靴を作る職人は鋲を打つのが上手で、簡単に靴を作ってしまいます。60年かければ、本当に簡単にできてしまうので、私自身も60年女優をしていますから、今ではもう本当に簡単に仕事ができるんです。舞台の幕が上がれば、またはカメラが回りだせば、私はもう自然に仕事に入れます。単純に自分の仕事をする。職人が鋲を打つのと同じような感覚で仕事をすることができます。
矢田部PD:先ほど「ノン」と最初おっしゃっていたのは、あまり監督から「こうしてくれ、ああしてくれ」というのは特に言われていないという意味でも、「ノン」だったんでしょうか?
エレナさん:はい。指示はさほど多くありませんでした。私だけでなく、他の役者に対しても指示は少なかったです。脚本の段階で非常に人物像がはっきり描かれていたので、撮影時にはもう理解できていました。撮影に入る前に舞台で1カ月練習し、その後ラボラトリーでも練習したので実際にカステッラーナ・バンディエーラ通りへ行ってカメラを回して撮った時にはもうみんな全部わかっていて、自然に動きもできました。それから、この映画は非常にテンションを上げていかなければ撮れないんですが、正しいテンションで演じることもできました。
矢田部PD:ありがとうございます。先ほどもう1つの質問で、60年女優を続けているというのがありましたが、女優として気をつけていることは何でしょうか?
エレナさん:まず考えるのは、お客さんのことですね。夫と2人で、ローマのテアトロ・マンゾーニという劇場をやっています。国立でなく私立なので、自分たちでいろいろ考えながらやっていかなければならないのです。定期的に7000人のお客さんが来てくれるのですが、これはイタリアの劇場としては非常に多いほうなんです。ですから、私と夫の考えとしては、第一にお客さんに好かれるものであること。けれども決して表面的なものでなく、お客さんがゆっくりくつろいで見られることができて同時にインテリジェンスを使って考えながら見ることもできるような手仕事を考えます。観客が自分で考えて楽しめて、かつ本質がちゃんとあるものを心がけています。
Q:ラストの勝負するシーンですが、サミーラは最後、勝負するだけしたという満足感があったのかなという気がしました。やり切ったという感じで、本人的にはうれしかったのでしょうか?
エレナさん:その通りです。よく分かっていると思います。脚本の中では実はサミーラが勝ったと言うセリフがありました。でもそれはカットされたのですが、しかるべきだったと思います。映画の中でサミーラが勝つかどうか賭けがされ、彼女自身は利用されるわけですが、彼女は賭けに乗らないということで、最後まで利用されなかった彼女の勝利、つまり彼女の内面的な勝利だと言えると思います。
Q:サミーラがイタリア語を決して話そうとしないところから頑固な性格だと分かったのですが、アルバニア出身という設定にはなにか意味があったのでしょうか?
エレナさん:彼女は実際に非常に頑固なのですが、アルバニア出身ということに関しては、アルバニアからの移民ということになります。義理の息子が出てきますが、アルバニアから来たということで、彼女には食べ物も、社会的な地位も、施しもしたし、自分たちのおかげで彼女はここにいられるというような言い方をするわけです。ほとんど人間以下のものであるかのように言い方をされる。それが彼女であって、彼女は最後までこき使われ、非常に利用されます。彼女の愛するものは、娘と、犬たちと、娘が残していった孫なわけですが、彼女は自分が最も愛していた娘を失うことで、全て失ってしまうわけです。何もしゃべらないとか、頑固だというのが彼女の反逆であり、彼女は死を決意するのです。ですから食べることを拒否して、息をすることを拒否するわけですから、実質的には自殺になります。いろんなものを拒否した上での自殺なのです。
矢田部PD:最後に一言、お願い致します。
エレナさん:すべてが無に向かって走っているという状況を描いています。希望のメッセージというふうにはならないと思いますが、この映画のテーマとしては無意味の葛藤を描くことによって、葛藤をやめよう、なくそう、平和を求めていこうという、メッセージというよりは観る人に誘いかける映画だと思います。私はいつもお客さんたちのことを見ていますけれども、今日は皆様、情熱的に観てくださったと思うので、ありがとうございました。
ワールド・フォーカス部門
『シチリアの裏通り』
監督:
エンマ・ダンテ
キャスト:
エンマ・ダンテ
アルバ・ロルヴァケル
エレナ・コッタ
レナート・マルファッティ
ダリオ・カサローロ
カルミネ・マリンゴラ
サンドロ・マリア・カンパーニャ