2008年の第21回から、2012年の第25回まで、東京国際映画祭のチェアマンを務められた依田巽氏。
この5年は、政治や経済が不安定であり、東日本大震災が起こった激動の時期であった。映画祭としても、その激動と無関係でいられたわけではなく、むしろ諸問題と対峙するかたちで、依田氏はチェアマンをやってこられた。
今回、この3月で任期が終了するに当たり、まずは、最後となった第25回の総括と、この5年間の感想をお聞きした。前・後編に分けて、その思いをお伝えしたい。
インタビュー・構成/TIFF制作チーム
――第25回東京国際映画祭が終わって3か月が経ちました。あらためて振り返ってみて、どんな感想をお持ちでしょう。
依田巽チェアマン(以下、チェアマン):第25回は、私がチェアマンを務めた5年間の集大成だったと思っています。一部作品の上映中止問題が起き、中国の映画人の参加が取りやめになったりと、大変残念な部分もありました。しかし、映画祭としての判断で『風水』が上映され、その判断への評価の声もいただき、全体としていい形で終了できたのではないでしょうか。
審査委員の方々も、ロジャー・コーマン氏を審査委員長に、一流の映画人が参加してくださり、東京国際映画祭に対する期待感や評価が、国内外や業界内外ともに高まっていることを実感しました。
そういう意味では、達成感のある映画祭になったと思います。
――就任なされて4年目あたりに、より「作品の強化」を強く唱えていました。結果としてこの第25回では1,332本と、前年比350本以上も多くの作品応募が寄せられました。作品も充実し、提言は実を結んだと思われますがいかがでしょう。
チェアマン:私がバトンを受け取った2008年の第21回から第23回までの期間は、「国際性を高める」、「知名度を上げる」という、本来、国際映画祭が持つべきプレゼンスを高めることを目指した3年間と言えます。
このホップ、ステップ、ジャンプを経て、次のステージとなる第24回を目指したわけですが、この回ではいよいよ「作品力」を主なテーマに、優れた作品を集めることに注力しました。
最終的に、より良い作品が集まる場となれば、映画祭としてそれ以上に望むものは何もないのです。
例えば、『最強のふたり』が第24回東京国際映画祭で東京 サクラ グランプリを受賞した後、本国フランスで大ヒットを記録するなど、東京で選ばれた作品が世界で高い評価を得ることができました。
その後、日本でも、とてもいい形で劇場公開され、映画祭の作品が一般にも高い評価を得るようになりました。
また、第24回、第25回で顕著になったのは、「日本映画・ある視点」部門にクオリティの高い作品が登場し、海外でも認められるようになったことです。
第24回「日本映画・ある視点」の作品賞受賞作『ももいろそらを』(注1)は、2012年のサンダンス映画祭で上映され、昨年11月に行われた第50回ヒホン国際映画祭(スペイン)では、グランプリを獲るなどの大きな成果をあげています。
このように、海外の優良な作品が東京国際映画祭をきっかけとして世界に飛躍する一方で、素晴らしい日本映画も東京での評価を受け、海外に認めて貰えたのです。
そして、第25回の『GFP BUNNY―タリウム少女のプログラム―』(注2)、『フラッシュバックメモリーズ3D』(注3)など、やはり海外でも高い評価が期待される作品が映画祭に登場し、第26回に向けて、東京に良い作品の集まる動きがますます具体化してきたと思います。
――第25回では、TIFFCOMがお台場に移りました。売上げも良かったようですが。
チェアマン: TIFFCOMが同じ六本木ではなく、別会場になったのは映画祭にとっては、大変残念なことです。でもTIFFCOMから見れば、TIFFと離れたことは残念ではありますが、お台場の広い会場で、音楽・映画・アニメとマルチ・コンテンツの見本市が一堂に会することにより、コ・フェスタの一環である本来のメリットが発揮できたと言えます。
その意味では、中国の不参加はあったものの、移転後、第一回目の開催としては、TIFFCOMは成功したと思っています。TIFFとTIFFCOMの交流は、両会場をシャトルバスでつないでコミュニケーションが取れましたし、1年目としては良くできたのではないでしょうか。もちろん、これから改善すべきところは改善し、より良い形にしていくなど、宿題はあると思います。
第25回TIFF最終日感謝の夕べにて(2012年10/28)
⇒後編につづく
注1):『ももいろそらを』
第24回日本映画・ある視点作品賞受賞後、サンダンス映画祭2012、第41回ロッテルダム国際映画祭を始め10以上の海外映画祭に招かれ、第50回ヒホン国際映画祭ではグランプリを受賞。2013年1月12日より全国順次上映。
momoirosora.jp
注2):『GFP BUNNY―タリウム少女のプログラム―』
第25回日本映画・ある視点作品賞受賞後、タイトルを『タリウム少女の毒殺日記』に改題。第42回ロッテルダム国際映画祭(2013年1月23日~2月3日)出品後、2013年7月より劇場公開予定。
gfp-bunny.info
注3):『フラッシュバックメモリーズ3D』
第25回東京国際映画祭 コンペティション観客賞。2013年1月19日より全国順次上映。
flashbackmemories.jp